研究課題/領域番号 |
15J40083
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
鈴木 重周 成城大学, 文芸学部, 特別研究員(RPD) (50773785)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 反ユダヤ主義 / 『リーブル・パロール』 / ドレフュス事件 / 『ロワールの灯台』 / ジャーナリズム / ユダヤ |
研究実績の概要 |
平成28年度は、19世紀末フランスの反ユダヤ主義とジャーナリズムの関係について、陸軍参謀本部におけるユダヤ系将校をめぐる冤罪事件であるドレフュス事件(1894ー1906)報道の分析を中心に次の三項目について検討を進めた。 1)E・ドリュモン率いる反ユダヤ主義日刊紙『リーブル・パロール』による1894年10月から11月にかけての事件のスクープ報道と、同紙の報道によって次第に「売国奴のユダヤ人による国家叛逆」という事件像の提示。2)法整備や社会経済情勢を背景とした19世紀末フランスにおける出版の黄金期が反ユダヤ主義言説の拡散に与えた影響。3)地方都市における反ユダヤ主義運動とジャーナリズムの関係。テーマに関する資料収集のため、今年度は10月にカナダ(モントリオール)、1月にフランス(ナント、レンヌ、パリ)で調査を行った。とりわけナントでは、調査先のロワール・アトランティック県文書館において同地の共和主義紙『ロワールの灯台』のマイクロフィルムを自由に閲覧することができ、今後の研究に新たな着想と展開をもたらす契機となった。 成果の公表は学会誌論文2報、学会での口頭発表1本である。 論文1「ドレフュス事件期の反ユダヤ主義とジャーナリズム―ナントの日刊紙『ロワールの灯台』をめぐって」(『関東支部論集』、第25号、日本フランス語フランス文学会)、論文2「初期ドレフュス事件報道における反ユダヤ主義言説―事件の発覚と軍籍剥奪式をめぐって」(『ユダヤ・イスラエル研究』、第30号、日本ユダヤ学会)、発表1「フランス反ユダヤ主義とメディアの黄金時代」(日本フランス語フランス文学会2016年度秋季大会、仙台)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の成果を学会誌論文2報、経過を学会発表1本としてそれぞれ公表できたことからも、計画はおおむね順調に進展していると言える。 本研究課題において主題となるのは、反ユダヤ主義の拡散においてメディアが果たした役割である。今年度はドレフュス事件報道をめぐって、反ユダヤ主義メディア(論文1、発表1)側、ユダヤ系フランス人(論文2)側のそれぞれの立場から考察を進めることができた。地方メディアに関しては、実際に調査を行う際に現地の文書館、図書館によって資料へのアクセス方法が異なっており、限られた時間の中で効率的に閲覧できる資料の分析をまず開始するという方法を取った。その中で研究の中心課題として浮かび上がってきたのが、ユダヤ系フランス人シュウォブ家がナントで経営する共和主義紙『ロワールの灯台』であり、とりわけドレフュス事件期から第一次大戦という激動の時代に社を率いたモーリス・シュウォブの存在は非常に興味深い。今後の研究にとって重要な考察材料を発見できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画としては、反ユダヤ主義、メディア、ユダヤ系フランス人という三つの問題系が交差するところに位置するナントの地方紙『ロワールの灯台』とその周辺に関する研究をさらに進めたい。具体的には、6月に同地の文書館で再び資料調査を行い、地方におけるユダヤ人をめぐる実態の一端を明らかにしたい。同時に、南西部のトゥールーズ、ローヌのリヨンといった大都市の主要メディア―『エクスプレス・デュ・ミディ』、『デペシュ』や『プログレ・ドゥ・リヨン』―を題材に、比較的穏健な地方紙がドレフュス事件に対してどのような立場を取ったのかを現地での資料調査から明らかにしたい。資料調査の成果はまず7月に受入研究機関である成城大学フランス文化研究会年次大会で口頭発表する。 10月には名古屋大学で開催される日本フランス語フランス文学会で口頭発表を行う予定である。徐々に研究が文学テキストや作家をめぐるものとは離れてしまっているという指摘もあるが、反ユダヤ主義とジャーナリズムが19世紀末のフランス社会に与えたインパクトを文化史的に明らかにしたい。 上記2本の研究発表を論文として公表し、フランス文学研究のみならずユダヤ研究、メディア研究の研究者にも助言を仰ぎたい。
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