研究課題/領域番号 |
15J40094
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平石 典子 東京医科歯科大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 歯質コラーゲン / リン酸モノマー / フラボノイド / 脱灰 / 再石灰 / 象牙質 / 固体NMR / エナメル質 |
研究実績の概要 |
歯質脱灰および再石灰化における組織構造変化の解明研究では、北海道大学 創成研究機構 研究部「安定同位元素イメージング技術による産業イノベーション」事業部で、同位体顕微鏡システムにて、Caの取り込みを解明した。従来はX線を用いたtransverse microradiographyにて、ミネラル脱灰、再石灰化を検討してきた。しかしながら、再石灰化部の分析では、内在象牙質ミネラルから溶解するカルシウムが再びミネラル化し沈着するか、または外在再石灰化溶液(唾液由来)(pH 7.0)のカルシウムを取り入れることができるのかの判別には至っていなかった。カルシウム安定同位元素を加えた再石灰化溶液(pH 7.0)を調整し、この再石灰化液にサンプルを浸漬させ、再石灰化させ、カルシウム同位体の取り込みを、同位体顕微鏡システムで解明した。(結果は、国際論文に、発表した。論文名:Hiraishi N et al. Dent Mater. 2018 Apr;34(4):e57-e62. doi: 10.1016/j.dental .impact factor 3.9)。2次元1H-31P Hetcor NMR方法によるフッ素の歯質への取り込み評価研究では、理化学研究所との共同研究で実施し、アパタイト結晶へのフッ素の取り込みを2次元Hetcor分析、評価した結果、象牙質ではフッ素の取り込みが顕著に見られたが、エナメル質では微小な変化にとどまった。象牙質にフッ素処理後、再石灰化させた場合、石灰化促進が見られた。2次元Hetcor分析結果は、2018年7月のInternational Association for Dental Research ロンドンで口頭発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理化学研究所横浜キャンパスのNMR施設ライフサイエンス技術基盤研究センターとの共同研究にて、2次元1H-31P Hetcor NMR方法によるフッ素の歯質への取り込み評価を行い、計画以上に進展があった。2次元1H-31P Hetcorは1Hの化学シフトとそれに結合する31P化学シフト上に相関ピークが得られ、1H-31Pの相関が検出される。その為1次元だけでは得られないハイドロキシアパタイトの特徴であるOH基のプロトンシフトを確実に分析できる。フッ素イオンの歯質への取り込みを、2次元1H-31P Hetcor NMR測定を行った結果、ハイドロキシアパタイトの特徴であるOH基のプロトンシフトに変化があらわれ、フッ素処理後ではやや低磁場に第二のOH基のシフトが現れることがわかった。2次元の高分解能Hetcor法で、スペクトルの情報量が増え、1次元スペクトルのみで分離できないピークが分離されるため、機能的再石灰化促進剤については、再石灰化を誘導する物質の研究を進めている。 一方、水中接着性ポリフェノール重合体の質接着材への応用は、溶媒接着性、審美的観点から、口腔内で使用する場合に危惧される要点の改善がやや困難であるとの見解に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
1) ミネラル生成分析:従来の合成法である、加水分解と湿式沈殿反応を利用する。加水分解法はCaHPO4・2H2O,Ca3(PO4)2のような難水溶性リン酸カルシウムを水中でハイドロキシアパタイトに転化させるもので、湿式沈殿反応は、カルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液との混合をpH8~10の塩基性条件で行う方法である。P濃度(PO43-及びHPO42-)、pH、反応時間を調整し、さらに添加イオンとして、フッ素、ホウ酸、亜鉛、アルミニウム、銀、ケイ酸、ストロンチウムなどの各イオンの生成アパタイトの結晶への取り込みを考察する。さらに、イオン効果・効能発現の補助的役割として、唾液にも含まれる、アルブミンなどの血清タンパク存在下のミネラル析出挙動を考察する。水溶性タンパクが緩衝作用を有するため、カルシウム、リン酸イオンがアパタイトに対し過飽和濃度でも、沈積が抑制し、歯石抑制効果があると推定される。同様の効果をフラボノイドに期待し、歯石抑制、歯質再石灰化の相反する現象の制御に寄与できるか試行する。 2) エピタキシー結晶成長性の分析 歯質ミネラルの固相上での結晶成長過程(エピタキシャル成長)を、X線回折, 個体核磁気共鳴で分析を行う。実際には複雑な反応物が生成されると考えられ、多結晶体の結晶成長または堆積の有無を分析する。 実験方法として、エナメル質、象牙質にて、フリーイオンを添加し、体温下で反応させることにより合成し、測定試料とする。 分析は、2次元1H-31P Hetcor NMR方法にて行う。標準物質のハイドロキシアパタイトには、(OH-)豊富な層が多く見られ、水が豊富な層はわずかなシグナルであった。歯質象牙質、エナメル質を分析した結果、(OH-)豊富な層と、水が豊富な表層の情報が得られるため、アパタイト組織構造の評価に有効である。
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