研究課題
肥満症において内科治療単独で長期間にわたる減量効果を得ることは非常に困難である。その主な理由は、エネルギー消費を上回る摂食行動を修正することが困難なためである。そこで、本研究の基礎研究では、肥満小で認められる過食に繋がる精神神経機能の変容とそのメカニズムについて、肥満関連病態モデルマウスを中心とした病態モデルマウスを用いて、特に、肥満の形成および治療過程におけるマイクログリアの役割を重点的に検討し、治療介入による代謝状況および高次中枢神経系機能の評価を行っている。臨床研究では、肥満症患者の体重増加および減量経過と、減量に対する動機づけ、食行動についてのアンケートを行い、病態形成過程と心理社会的状況についての徴取を行っている。さらに、同肥満症患者に神経心理学的検査を減量治療経過中行い、食行動に影響を及ぼす高次中枢神経系機能の状況および可逆性について評価を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度5月から12月の8ヶ月間は産休および育児のための研究中断期間ということであったが、4月および9-12月の研究再開準備期間を実験環境のセットアップに充てることが出来たため、1月から3月の3ヶ月間は基礎検討データの蓄積に当たることが出来た。【臨床研究】①外来肥満症患者を対象に、減量に対する動機づけに関するアンケートを行っている。ここまでの解析では、減量の動機は肥満合併症の改善が最も多く、次にパフォーマンスの改善が多かった。減量成功群の減量意欲の大きさには、減量に成功した後に目標が明確にあること、減量に対する期待が大きいこと、趣味があること、が相関していた。さらに、同じアンケートを同じ患者群に3ヵ月毎に行ったところ、徐々に食べることへの罪悪感が増え、減量が自分のためではなく周囲の人のためである、と考えるようになるという結果が得られた。経過とともに空腹感の制御およびモチベーションの維持が困難で、周囲のサポートをより必要とすると考えられた。②外来肥満症患者に当科オリジナル認知機能検査のエントリーを募集中である。【基礎研究】①報酬価値評価系の確立:マウス個体での食べ物の報酬価値を評価する行動解析(progressive ratio)を野生型マウスで検討している。②空腹感制御機構解析モデルの確立:脂肪からの離脱の検討のため絶食再摂食、sucroseからの離脱の検討のため、Two-bottle preference testを行い、マウスの代謝パラメーターの評価および脳内の変化を解析している。③肥満症脳内変化のメカニズム解析:19週間高脂肪食負荷を行ったマウスと正常食を負荷したマウスの視床下部および海馬マイクロアレイを行ったところ、視床下部だけでなく、海馬においても炎症系のpathwayに変化が認められていた。
臨床研究では、初診時、および減量効果がプラトーになる6か月以降も減量しつづけるために何が必要か、何が妨げになっているか、臨床研究への被験者エントリーを増やすと同時に、アンケートおよび認知機能検査結果を手掛かりに解析と考察を進めていく。さらに、FTO遺伝子SNPsおよび血中レプチン・アディポネクチンのバイオマーカーとしての可能性を明らかにする。これらの情報を具体的な肥満症治療および療養指導に役立てることを試みる。基礎研究では、肥満症の精神神経機能を変容させる共通のメカニズムとして、脳内の慢性炎症に注目し、マイクログリアおよびグリアによる末梢とのコミュニケーションおよび脳内でのレギュレーションについて解析を進める。これまでの検討では、19週間の高脂肪食負荷では、炎症性の変化があまり大きくないという結果が得られており、より早期についても今後検討予定である。エネルギー代謝状態やストレスと関連性をもつ、Foxo遺伝子改変マウス(Foxo1/3a/4ΔDATマウス)の解析もすすめていく。これらの解析を基盤として、肥満の過食につながる情動・報酬系破綻メカニズムを明らかにし、その治療法の開発を目指す。
アンケートによる減量を目的とする肥満症患者心理の検討/神経心理学的検査による肥満症高次脳機能評価およびFTO遺伝子多型と血中レプチン・アディポネクチン値との相関の検討、の2つの臨床研究について内容を記載している。
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Peptides
巻: 81 ページ: 38-50
10.1016/j.peptides.2016.03.014.
Obesity
巻: submitted ページ: 印刷中
Neuropeptides
http://www.keio-emn.jp/guidance/index.html