研究課題/領域番号 |
15J40106
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
後藤(山田) 伸子 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満症 / 過食 / 精神神経機能 / 脳内慢性炎症 / 肥満症関連モデルマウス / 行動解析 |
研究実績の概要 |
【臨床研究】①当科の肥満症患者を対象に、減量に対する動機づけに関するアンケートを質問紙により行っている。初診時の回答内容と体重減少率に相関するものはなかった。初診患者のうち通院継続群では、全例で5%以上の減量を達成した。最大減量率が得られたのは6か月から9か月の間でその後は緩やかに体重増加を認めた。アンケートを同一患者に3ヵ月毎に行ったところ、徐々に食べることへの罪悪感が増え、減量が自分のためではなく周囲の人のためである、と考えるようになるという結果が得られ、経過とともに空腹感の制御およびモチベーションの維持が困難で、周囲のサポートをより必要とするようになっていると考えられた。1年以上の時間経過を経ても目標体重や減量意欲には変化は質問紙上認められなかった。さらに、アンケート自由回答では、肥満教室や運動療法についてのサポートを希望する声を聴取した。②上記同様、肥満症患者を対象に、既存の神経心理学的検査を組み合わせた当科オリジナルの認知機能検査を行っている。③ ①、②を踏まえ平成28年8月に肥満症減量チームを発足した。 【基礎研究】今年度は、肥満病態解明に繋がると考えている、高脂肪食誘発肥満モデルマウス、Foxo1, 3a,4ΔDATマウス、PcxΔAgRPマウスの繁殖や作製に時間を要し、解析対象となるモデルマウスを共同研究者の施設へ搬出するところまでは至らなかった。PcxΔAgRPマウスについては基礎検討が進んでおり、体重や摂食量に差は認められないが、耐糖能の改善傾向およびインスリン感受性が良好である可能性が認められている。高脂肪食誘発肥満モデルマウスについては、高脂肪食負荷の期間を変えたタイムコースを、サンプリング週齢を揃えたものを含め用意し、解析を行っている。小動物用麻酔装置は前述のマウスに摂食行動への作用があるペプチドの脳室内投与を行う際に使用している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床研究では、本研究計画により平成28年8月より肥満症治療チーム(食養課、スポーツクリニックおよび当科)が発足し、診療にあたっている。肥満患者を対象とした二つの研究計画のうち、アンケートについては終了間近であり、結果をまとめている。認知機能検査については平成29年3月31日現在、エントリー数は6例(50例を予定)で、うち、2名に半年後の再評価を行ったところである。平成28年8月に、当科、スポーツクリニック、および食養課共同で、肥満症減量チームを発足した。ここに、平成29年度からは認知行動療法の監修および実践者として、臨床心理士の指導も加わることとなり、症例ごとに個別に対応している。平成29年3月31日現在、対象患者は延べ40人となっている。今後は、肥満教室を設立し、集団療法も開始していく予定である。これら臨床研究の計画については当初の予定より進んでいる。 基礎研究については、肥満症関連モデルマウスの作製と基礎データを得ている。具体的には、高脂肪食誘発肥満モデルマウスのサンプリングがほぼ終了している。海馬および視床下部のマイクロアレイ解析の結果から得られた情報のうち、炎症系の変化に注目し、解析を行っている。Foxo1, 3a,4ΔDATマウスの繁殖効率が著しく不良のため、基礎的データが充分蓄積できていない。PcxΔAgRPマウスについては基礎検討が進んでおり、体重や摂食量に差は認められないが、耐糖能の改善傾向およびインスリン感受性が良好である可能性が認められている。いずれの検討も、論文化可能なデータ蓄積は得られておらず、満足する成果が得られているとは言えない。本研究計画はすべての計画を申請者一人で行っており、平成28年度は基礎研究時間の十分な確保が難しかった。また、対象となる肥満モデルマウスの繁殖効率が当初の予定より不良である、などが原因として考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
臨床研究は二つの研究についてデータ構築および解析を行い、論文化を目指す。また、肥満症治療チームにより、症例ごとの個別化医療を図ると同時に、各専門分野連携のシステムを構築し、漏れのない、安心できる医療体制を外来入院ともに確立する。同時に、具体的な治療効果や研究成果を挙げていく。 基礎研究についてはマンパワーの絶対的不足があるため、申請者個人の環境整備努力、実験のフォーカスをしぼると同時に学内外で共同研究を進めることでスピードアップを図る。繁殖規模を拡大することで、データ構築ペースを上げていく。具体的には、順調に繁殖出来、野生型に対し代謝改善作用が認められているPcxΔAgRPマウスにフォーカスを絞る。Preliminalyな結果ではあるが、PcxΔAgRPマウスに高脂肪食を負荷したマウスは、野生型に対しより著しい体重増加を認める。現在までのところ、Pcx遺伝子の変異とヒト肥満との関係は報告されていないが、PcxはTCA回路を調節することで、ミトコンドリア代謝およびグルコース‐乳酸代謝を調整する重要な因子であり、脳内のエネルギー調節系の理解に繋がると考えている。平成29-30年度については臨床及び基礎研究いずれについても学会発表を行っていく。臨床・基礎研究それぞれ得られた知見を研究の方向性に活かしていく。
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