研究課題/領域番号 |
15J40120
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 彩 北海道大学, 歯学, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 腫瘍溶解ウイルス / 肝毒性 / microRNA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、腫瘍溶解アデノウイルスを全身投与し、転移した腫瘍細胞を溶解することができるようにすることである。アデノウイルス(Ad)は宿主の免疫機構により除去されてしまうため、血流内に存在できる時間が短く、また肝毒性を示すため、静脈内投与による治療効果が高くないことが報告されている。本年度は肝臓への負担を減らすために肝臓特異的なmiRNA(miR122)により増殖が抑制され、その結果肝臓で増殖することができないAdを作製し、このウイルスを腫瘍溶解ウイルスとして用いることができるかどうか検討することとした。 miR122は肝臓で高い発現を示すが、他の組織では発現が低いことが報告されている。申請者は肝がん細胞株(Huh-7)と子宮頸がん細胞株(HeLa)を用いてmiR122の発現レベルを検索し、Huh-7でHeLaと比較してmiR122の発現が高いことを確認した。Huh-7とHeLaを用いて、野生型5型Ad(WT300)と数種類の変異Adによる細胞死を検討した。その結果、WT300ではHuh-7、HeLaで同程度の細胞死がみられたが、Adの初期遺伝子E4の一部を欠失したAdΔE4を感染させたHuh-7ではほとんど細胞死がみられず、HeLaでは60%程度の細胞死がみられた。この結果より、miR122を高発現する細胞ではAdΔE4の増殖が抑制されることが示唆された。 AdΔE4をがん細胞株、正常細胞株に感染させ、細胞死を検討したところ、がん細胞では正常細胞と比較して細胞死の割合が高いことが示された。また、ウイルスの増殖効率は、がん細胞で正常細胞と比較して高いことが示された。 以上の結果より、AdΔE4はmiR122を発現する肝臓ではほとんど増殖しないことが示唆され、正常細胞に対する細胞毒性が低いことから、全身投与を目的とした腫瘍溶解ウイルスとして用いることが可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍溶解アデノウイルスの臨床応用の問題点の一つとして、アデノウイルスの全身投与時にウイルスが肝細胞で増殖し、それを介した肝障害が生じることがあげられる。この問題を解決できれば、腫瘍溶解アデノウイルスの臨床応用がより現実的なものとなる。 申請者の研究は、この問題を解決するための基礎研究で、我々が開発した数種類の腫瘍溶解アデノウイルスが肝細胞で増殖して、細胞傷害(細胞死)を引き起こすかを検討した。その結果、肝細胞特異的に発現するマイクロRNA、miR122を強く発現している肝細胞では、腫瘍溶解ウイルスのうち初期遺伝子E4の一部を欠失したAdΔE4による細胞死が抑制されることが明らかになった。 またAdΔE4はがん細胞で正常細胞と比較して細胞死の割合が高く、また増殖効率はがん細胞で正常細胞と比較して高いことが示された。 以上の結果より、AdΔE4の肝細胞や正常細胞に対する細胞毒性が低いことから、全身投与を目的とした腫瘍溶解ウイルスとして用いることが可能であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後はアデノウイルス(Ad)を免疫機構から保護するためにAdの表面をPEGで被覆し、血中におけるAdの存在時間を延長できるかどうか検討する。まず腫瘍に集積するように修飾をしたPEG (PEG-RGD)を合成し、AdΔE4をPEG-RGDで処理したもの(AdΔE4/ PEG-RGD)を作製する。その後AdΔE4/ PEG-RGDを肝細胞と癌細胞、正常細胞に感染させその生産効率、細胞溶解効果を検討する。またマウスにAdΔE4/ PEG-RGDを静脈内投与し、血中でのAdの存在時間や生体内での毒性を検討する。 またAdΔE4/ PEG-RGDが、移植した腫瘍に効果を持つかヌードマウスを用いて検討する。まず、ヌードマウスの皮下にヒトのがん細胞を移植し、腫瘍に直接AdΔE4/ PEG-RGDを導入し、時間経過と共に腫瘍の体積を測定する。次にヌードマウスの転移性肺腫瘍モデルを作製し、AdΔE4/ PEG-RGDをヌードマウスの尾静脈から導入し、その後の肺の重量を測定する。またAdΔE4/ PEG-RGDをヌードマウスに静脈内投与し、ヌードマウスの血中の肝臓障害マーカーであるAST、ALTの測定や、ヌードマウスの肝臓の組織学的な解析により、肝障害の程度を検討する。
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