研究課題/領域番号 |
15J40132
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長柄(田井) 育江 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-07-29 – 2018-03-31
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キーワード | 血管新生 / 腫瘍血管 / 網膜血管 |
研究実績の概要 |
初年度は、血管網の形成過程を適切に評価する系として、発生過程が詳細に解析されているマウス仔網膜血管のホールマウント技術、および、共焦点レーザー顕微鏡を用いた網膜全体の血管構造解析技術を習得した。この技術により、複雑な血管構造の詳細をvisual的に評価することが可能となる。 一方で、高血糖やがんの進展において重要な共通因子となる酸化ストレスに着目し、酸化ストレスを制御するミトコンドリアシャペロンmortalinについて、ノックアウト(KO)マウスの作製を試みた。しかし、F1マウスが生まれず、取得には至らなかった。そこで、mortalinと結合し、協調してミトコンドリア活性酸素種を消去する抗酸化因子であるDJ-1について、KOマウスの網膜血管を解析した。しかし、生後6日目におけるDJ-1 KOマウスの網膜血管の伸長はコントロールとして用いたDJ-1ヘテロマウスと同等であり、動静脈および毛細血管の形態も正常であった。さらに、より酸化ストレスの亢進した状況で表現型の違いを評価するため、高酸素負荷による虚血性網膜症モデルを用い、高酸素負荷処置の5日後の新生血管を解析した。しかし予想外なことに、このモデルにおいてもコントロールと同程度の血管新生が起こっており、血管の形態にも差がなかった。また、肺の血管網についても解析を行ったがこちらも群間での差は認められなかった。 また、腫瘍血管の評価系として、KOマウスへの移植が可能な同種移植の実験系を導入した。野生型B6マウスの皮下にマウス由来B16メラノーマ細胞を移植し、1週間後の腫瘍を摘出して凍結切片を作製し、血管内皮マーカーCD31の陽性部位について共焦点レーザー顕微鏡を用いて形態学的評価を行った。腫瘍の最大割面において、peritumor、intratumor共に血管量と形態の評価が可能であったため、今後はKOマウスに移植した腫瘍等で腫瘍血管を評価していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病における腫瘍血管の特徴として、活性酸素種の蓄積による内皮細胞の変化が想定され、両疾患の進展・増悪にも少なからず関与している。そこで本年度は酸化ストレスを制御する分子に着目し、血管形成における機能を解析した。まず、ミトコンドリアの品質管理を担い、活性酸素の産生を抑える分子シャペロンMortalinに着目し、コンディショナルKOマウス作製を試みるも、germ line移行マウスを得ることができなかった。 続いて、ミトコンドリア内でMortalinと協調して活性酸素種を消去する抗酸化因子DJ-1のKOマウスを対象に、血管形成過程における活性酸素種の影響を検出することを試みた。しかし、様々なin vivo血管新生の系をアプライするも、有意な表現型を見出すには至らなかった。この結果は非常に予想外ではあったものの、少なくともDJ-1分子が持つ活性酸素種消去活性の血管形成への寄与は小さいものと推定された。 明瞭な表現型を得ることはできなかったものの、この研究過程において、新生仔マウス網膜血管、腫瘍血管新生の評価・解析法やin vitro血管新生アッセイなど、血管生物学で重要となる多数の解析法に習熟し、高いレベルの技術習得につながった。
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今後の研究の推進方策 |
所属研究室では、癌もしくは糖尿病への関与が想定されるKOマウスを複数所有している。 そこで、本年度はまず、これらのKOマウスについて網膜血管を用いた血管評価系を用いて、血管新生の異常の有無を解析する。網膜血管の血管新生を評価項目としたスクリーニングから新規血管新生制御因子を見出した後、血管新生において表現型が認められたマウスに対し、腫瘍の同種移植を行い、腫瘍血管を評価する。 腫瘍血管に質的量的な差が認められた場合、薬剤もしくは食餌性に高血糖を誘導し、 腫瘍の増減、腫瘍血管の差を評価し、メカニズム解析に進む。
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