研究課題/領域番号 |
15J40132
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長柄(田井) 育江 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-07-29 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満 / 糖尿病 / 血管新生 / 腫瘍血管 / VEGF |
研究実績の概要 |
昨年度身につけた、腫瘍移植から組織免疫組織化学法までの一連の腫瘍血管解析技術を用い、本年度は、正常および肥満マウスにおける腫瘍サイズと腫瘍血管を評価した。具体的には、6週齢の免疫不全(SCID)マウスに対して、高脂肪食 (ENVIGO, TD.88137 Adjusted calorie diet (42% from fat)および、通常食を6週に渡って投与し、体重増加を確認した。さらに、それらのマウスについて、12週齢になった時点で、ヒト大腸癌細胞株であるCaCo2およびHCT116を背部皮下に移植した。正常および肥満マウスそれぞれの群をさらに、抗VEGF抗体Bevacizumab投与群 (Avastin (中外製薬, #874291) 5mg/kg/回)と、ヒトIgG投与群(control)に分けて、移植7日目から2週間にわたって合計4回のBevacizumab投与を行った。その後、15週齢でsacrificeして腫瘍を摘出し、解析を行った。 まず初めに、CaCo-2を用いてXenograft modelを作成したが、CaCo-2はマウスへの生着率が低かったため、HCT116に変更してXenograft modelを作成した。その結果、通常食群と比較して高脂肪食群に生着した腫瘍はサイズが大きく、血管が豊富であった。摘出した腫瘍の肉眼的所見を(図1)に示す。さらに、Bevacizumabを投与することにより、通常食群と高脂肪食群の腫瘍はどちらも縮小傾向を認めた。高脂肪食群では、より血管新生が抑えられていることが示唆された。この結果から、既に指摘されている肥満と腫瘍の関係を改めて裏付けられた。また、Bevacizumabの血管抑制効果が高脂肪食群でより強く現れることは、内臓脂肪の多い癌患者で抗VEGF抗体が特に有効であるとする臨床の知見と符合する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、肥満および高血糖のモデルである高脂肪食摂取マウスにおける腫瘍の解析を進めた。大腸がん細胞株を用いた移植の系では、高脂肪食摂取マウスにおいて腫瘍サイズおよび腫瘍血管量が増大していた。また、通常食摂取マウス高脂肪食摂取マウス共に、腫瘍サイズはVEGF中和抗体によって縮小したが、高脂肪食摂取マウスでは腫瘍血管がより著しく減少していた。これは、脂肪量が多い被験者で抗VEGF抗体の効果が増強するとする臨床知見と矛盾しない。今後は表現型解析の例数を蓄積させるとともに、本実験系を利用して、次年度は高脂肪食摂取マウスにおける腫瘍血管の特徴とその形成メカニズムの解析を進める。具体的には、血管内皮細胞および腫瘍細胞における活性酸素種、HIF1aおよびVEGF等を解析するとともに、腫瘍組織における解糖系代謝産物を測定し、高血糖により誘導される分子経路の活性化を検証する。 また研究の過程で、血管生物学で重要となる多くの解析法を習得し、これまでに新規4回膜貫通型タンパク質Tetraspanin18の血管内皮特異的ノックアウトマウスが、網膜血管発生の場において動静脈化や血管新生過程に異常を呈すること、さらに新規がん抑制遺伝子FLCNの血管内皮特異的ノックアウトマウスが、血管内皮細胞でのprox1異所性発現およびリンパ管との異常吻合、リンパ管拡張などの異常を呈することを見出している。次年度はこれらの異常についても解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、表現型解析の例数を増やすことと並行して、腫瘍血管の構造解析および血管新生に影響を与えると考えられる活性酸素種や解糖系代謝の解析を進める予定である。 また、所属研究室では、癌もしくは糖尿病への関与が想定されるノックアウトマウスを複数所有していることから、これらのマウスについて網膜血管を中心に血管形態を評価した。その結果、我々は血管内皮特異的Tetraspanin18ノックアウトマウスに動静脈発生異常を見出した。さらに、血管内皮特異的Folliculinノックアウトマウスで血管内皮細胞におけるprox1異所性発現およびリンパ管との吻合、著しいリンパ管拡張を見出しているため、こちらの解析も同時に行っていく予定である。
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