研究課題/領域番号 |
15J40157
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
伊規須 素子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 顕微赤外分光法 / 放射光 / 先カンブリア時代 / 微化石 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、主に1、分析試料の選定・記載、2、試料の顕微ラマン分光分析、3、顕微赤外分光分析、4、大型放射光施設(SPring-8)における顕微赤外分光分析、5、NanoSIMSを用いた分析の前準備として走査型電子顕微鏡観察を行う予定であった。このうち1から4を実施した。通常は空間分解能10ミクロンオーダーの顕微赤外分光分析において、数ミクロンスケールの空間分解能を達成しうるSPring-8の赤外ビームラインの利用は、本研究の更なる発展につながると期待できるため、4の実施および成果発表に重点を置いた。 SPring-8において約8.3億年前の糸状微化石および球状微化石の顕微赤外分光分析を行った。これらは市販の赤外顕微鏡によるマッピング測定(アパーチャーサイズ:20x20um2)で、微化石部分から脂肪族CH2結合およびCH3結合が検出された試料である(Igisu et al., 2006)。これまでに、放射光赤外顕微鏡による薄片中の有機質微化石分析の前例がないため、本実験では市販の赤外顕微鏡で有機物のシグナルが得られた微化石試料を選定した。 SPring-8では、アパーチャーサイズ約2x2um2、ステップ間隔約2umでマッピング分析を行った。その結果、前述の条件で中赤外スペクトルを得ることが可能であることを確認した。得られたスペクトルの2925cm-1および2850cm-1ピーク(いずれも脂肪族CH2結合)に着目し、それらの空間分布から、1、糸状微化石では幅約6umの糸状構造に沿って脂肪族CH2結合が分布すること、2、球状微化石においては膜構造の一部に沿って脂肪族CH2結合が分布することを明らかにした。以上の結果は放射光赤外顕微鏡が薄片中の微化石分析においてミクロンスケールの空間分解能で官能基の検出部位に制約を与えることが可能であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初に設定した目標1~5のうち1~4を実施し、4については成果をまとめ、学会発表および国際誌への論文投稿を行った。ゆえに、5は実施していないが、全体としてはおおむね順調に進展したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き微化石の記載・化学分析を中心に研究を推進する。赤外スペクトルの脂肪族CH結合は、CH2結合(2925cm-1)・CH3結合(2960cm-1)のピーク高さ比によって鎖状構造の長さ・枝分かれ度合を評価することが可能である。しかし、今回のSPring-8で行った測定条件下では基質石英の干渉縞が検出されてしまい、脂肪族CH結合の構造の制約は難しい。この問題は試料作製方法の改良および測定条件の再検討で解決されると期待されるので、今後諸条件を検討し、微化石から検出された脂肪族CH結合の起源の考察を試みる。
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