研究実績の概要 |
今年度は,前年度に投稿した2報の論文を完成させることと,微化石試料の顕微赤外分光分析を推進することを目標とした.これは,平成29年度に産前産後休暇を取得し,今年度も研究再開準備支援期間を取得したことに伴い,申請当初に設定した計画を変更したものである. 投稿論文については,前年度までに投稿した2報の論文に関して,査読結果を受け,追加実験を実施した後,再投稿した.そのうち1報は受理された. 微化石の顕微赤外分光分析については,南中国三峡地域から産出した約5.8億年前の有機質微化石(アクリターク)のマッピング分析を行った.分析対象としたアクリタークを光学顕微鏡観察により,外膜に突起構造を有するか否かに基づき,Acanthomorphとその他の2つに大別した.またAcanthomorphを外膜内に構造を有するか否かに基づき2つに分類した.マッピング分析の結果、突起構造の有無に関わらず,外膜はいずれも芳香族C-H結合を含むことが分かった.内部構造を有するAcanthomorphでは,内部構造が主に脂肪族C-H結合から成るものと,芳香族C-H結合から成るものの2種類があることが分かった.これまで先行研究において,原生代アクリタークから検出された特徴の殆どは脂肪族C-H結合である.例外として,後期原生代のAcanthomorphの一種が主に芳香族C-C結合からなることが報告され,現生の渦鞭毛藻シスト壁に組成が類似する可能性が指摘された(Arouri et al., 2000).これは本研究で観察された特徴(芳香族C-H結合)とは異なる官能基だが,芳香族に富む点は類似する.更なる考察が必要だが,本研究におけるアクリタークの外膜構造は脂質・タンパク質のような一般的な細胞ではなく,シストのような生体高分子由来かもしれない.
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