研究課題
本研究課題は呼吸鎖複合体であるシトクロム bd の結晶構造を明らかにし、酸素の少ない低酸素 (微好気) 条件下で特異的に作用するメカニズムの解明を目指すものである。本年度、申請者は精力的にシトクロム bd複合体結晶の分解能の向上に努めていた。その矢先、欧州グループより立体構造が報告され、先行グループの構造より、より高分解能での構造決定 を目指す方針に目標修正を行った。本複合体は17回膜貫通と、通常の膜タンパク質に比べて膜貫通部位が多く、良質な結晶を得るこ と、ましては高分解能結晶を得ることは極めて困難である。そこで、膜貫通領域の少ない膜タンパク質を用いて Cytbd 複合体結晶の 高分解能化に向けた研究手法の確立を行うこととした。対象サンプルは緑藻が持つ新規なアンテナタンパク質(SCP)の結晶構造解析を中心的に進めることとなった。SCP は葉緑体のチラコイド膜上に存在する膜タンパク質であり、シトクロム bd 複合体と同様に結晶の高分解能化を課題としている。そこで、本年度はシトクロム bd 複合体で用いた脱水法や結晶化法を手法を導入し、native SCP 結晶の分解能の向上を目指した。その結果、20 オングストローム分解能結晶を 4.9 オングストローム分解能までの高分解能化に成功した。続けて native SCP の再結晶化法の最適化ならびに SCP の組替え体の作成と再構成法の確立を行った。さらに平行して、シトクロムbd 複合体の初期位相の決定を試みた。
2: おおむね順調に進展している
(1) SCP の再結晶化:シトクロム bd 結晶の結晶化法を適応し、大量に作成したSCP の抗凍結剤入りの結晶を用いて再結晶化にトライした。得られた結晶を凍結し、大型放射光施設 SPring-8 でX線回折測定を試みた。その結果、最高到達分解能 4.9オングストロームと分解能のさらなる向上に成功した。(2) SCP の再構成法手法の確立:タンパク質の結晶化では、サンプルの物理的な純度の高さが高分解能結晶作製には必須であるが、SCPは複数のアイソザイムを持つために物理的純度が悪いと予想される。そこで、SCP の物理的純度向上に向けて、各アイソザイムの遺伝子を単離した。得られた組替え SCP を大腸菌で培養し、緑藻色素類と混合することによる SCP の再構成法の確立を試みている。(3) シトクロム bd 複合体の構造解析:シトクロム bdの構造解析はモデル分子に昨年結晶構造報告されたシトクロム bd分子を用い、分子置換法により初期位相を決定した。今後は既知のシトクロムbdと構造差異を比較を行う。以上より本年度はおおむね順調に進展している。
本年度の取組みでは、シトクロムbdの更なる高分解能結晶取得に向けて、より膜貫通の少ない膜タンパク質SCPを対象に高分解能化の研究手法の確立を進め、20オングストロームから4.9オングストローム分解能の劇的な分解能向上を達成した。今年度は効果の高かった再結晶化法のさらなる最適化および、組み替えSCPを用いた結晶化および構造解析を進める、さらには、最終目標であるシトクロムbdの高分解能化に向けて、再結晶化法をより最適化し、平行して現在得られている初期位相モデルを用いて構造精密化も進め、既知構造との構造差異を比較する。
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Nature Commun.
巻: 8 ページ: -
10.1038/ncomms14397