研究課題/領域番号 |
15J40208
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
松本 幸代 学習院大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 吃音 / 幼児 / 心理言語学 / 音韻 / 統語 / 発達 / 発話 / 非流暢性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、幼児期の吃音の生起に関わる心理言語学的要因を統語的側面と音韻的側面を中心に検討することである。
統語的側面について、今年度は共同研究において吃音幼児1例を対象に、吃音の発生前と発生後の時期での統語発達を検討した。データ収集開始時、対象児は1歳6ヵ月であり、1歳11か月の時に吃音が発生した。自然発話の収集を1週間に1度行った。その結果、1) 項と述語の両方を含む発話の産出がみられず、述語のみの発話しか観察されなかった時期には吃音が生じなかった、2) 項と述語の両方を含む発話が初めて観察されてから約1か月後に吃音が発生した。これらの結果から、述語項構造の獲得が吃音の発生に密接に関わっていることが示唆された。この研究内容をThe 16th International Clinical Phonetics and Linguistics Association Conferenceで発表した。一方、学齢期の吃音児28名を対象とした研究から、学齢期の吃音は幼児期と異なり、統語的要因の影響を受けないことが示唆された。この研究結果を中核とした論文がClinical Linguistics & Phoneticsの2016年7月号に掲載された。
音韻的側面については非吃音幼児を対象とした検討を行った。幼児期の吃音の発生、消失を検討するためには、非吃音幼児が示す発話の非流暢性の発生、減少に関する知見が不可欠であると思われる。今年度は非吃音幼児が発話の非流暢性を示し始めるといわれている2歳0か月前後における分節的側面の発達と韻律的側面の発達を比較することを目的とした。その結果、音韻の発達は分節的側面と韻律的側面で異なり、2歳0か月前後に韻律的側面は急速に発達し、ほぼ完成するのに対し、分節的側面はそれと対応した発達を示さないことが示唆された。この研究内容を日本特殊教育学会第54回大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、幼児期の吃音の生起に関わる心理言語学的要因を統語的側面と音韻的側面を中心に検討することである。当初は吃音のある幼児10名を対象とする予定であったが、吃音幼児多数例のデータ収集は困難であることが昨年度(採用第1年度)わかった。そこで、今年度以降は吃音幼児少数例を対象に詳細な縦断研究を行うことにした。 また、幼児期の吃音は非吃音児が示す発話の非流暢性と類似しているといわれている (Bloodstein, 2006)。したがって、幼児期の吃音の発生、消失を検討するためには、非吃音幼児が示す発話の非流暢性の発生、減少に関する知見が不可欠であることが指摘されている。そこで、今年度以降は非吃音幼児少数例を対象とした縦断研究も行うことにした。
現在までの達成度を「(2) おおむね順調に進展している」とした理由の一つは、今年度は新たな方向でのデータ分析、成果の発表がほぼ予定通り行われたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたように、今年度以降は吃音幼児および非吃音幼児少数例を対象とし、詳細な縦断研究を行うことにした。 吃音幼児については共同研究において、吃音幼児1例を対象に、統語の発達と吃音の発生との関係を検討した。データ収集開始時、対象児は1歳6ヵ月であり、1歳11か月の時に吃音が発生した。自然発話の収集を1週間に1度行った。その結果、統語的要因の中でも、述語項構造の獲得が吃音の発生に密接に関わっていることが示唆された。なお、この対象児は3歳1か月で吃音が消失した。そこで、最終年度では吃音が消失した時期の統語発達について検討することを目的とする。 非吃音児を対象とした検討では、非吃音幼児1例を対象に、非吃音幼児が発話の非流暢性を示し始めるといわれている2歳0か月前後における分節的側面の発達と韻律的側面の発達を検討した。その結果、音韻の発達は分節的側面と韻律的側面で異なり、2歳0か月前後に韻律的側面は急速に発達し、ほぼ完成するのに対し、分節的側面はそれと対応した発達を示さないことが示唆された。本年度は2歳0か月前後における韻律的側面の急速な発達と発話の非流暢性の発生、増加との関係について検討する。 なお、この他の吃音幼児、非吃音幼児についても対象となる子どもを探す試みは継続し、みつかった場合は対象に加えて検討を行う。
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