研究課題
(1)キヌレニン代謝物の定量測定前年度までの研究でバイオマーカー候補の一つとなったキヌレニンとその下流産物であるキノリン酸の絶対定量系を作成し、インフルエンザ及びHHV-6症例の解析を行った。インフルエンザ感染症例55症例を脳症12例、熱性けいれん18例、非熱性けいれん25例の3群で比較解析した。キヌレニン、キノリン酸とも脳症群は非熱性けいれん群と比べ有意に上昇していた。髄液のキノリン酸定量では脳症13例、熱性けいれん11例の2群で解析を行ったところ有意差はなかったが、脳症でとくに高値の症例がみられた。HHV-6感染症例を脳症17例、熱性けいれん14例、非熱性けいれん7例の3群にわけて解析した。3群間の中央値の比較解析では有意な差なかったが、一部の脳症症例でキヌレニン、キノリン酸が高い値を示した。髄液キノリン酸の解析では5例の脳症症例のうち、高値を示した2例は後遺症を遺しており、予後と相関する可能性が示唆された。(2)in vitro脳血流関門モデルを用いたキヌレニン代謝物の脳血流関門に与える影響の評価BBBキットは脳毛細血管内皮細胞、周皮細胞及び星状神経膠細胞により構成されており、タイトジャンクション機能は経内皮電気抵抗(TEER)と相関する。キットの血管側にキノリン酸、キヌレニンを添加後、TEERを測定した。脳血流関門の透過性を評価するためナトリウムフルオレセインの透過係数を測定し、タイトジャンクションタンパク質の局在を蛍光抗体染色して観察した。結果、キヌレニン投与後TEER変化はなかったが、キノリン酸投与後はTEERの低下をみとめた。透過性試験・タイトジャンクションタンパク質の局在はキヌレニン、キノリン酸ともに変化はみられなかった。しかし、ポジティブコントロールであるリポ多糖投与後も変化なかったためキノリン酸のBBBに与える影響を否定するものではないと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の大きな成果は大きくわけて二つある。ひとつは前年度までのメタボローム解析で、脳症に関与すると思われた物質のうち、キヌレニンとその下流産物であるキノリン酸に着目し、絶対定量系を作成して症例を増やし検討できた。症例をふやして検討することでインフルエンザ感染、あるいはHHV-6感染という同じ背景で脳症、熱性けいれん、けいれんなし(発熱のみ)、という多様な病態ごとにて検討を行えた。結果、インフルエンザでは脳症症例はけいれんなしの群と比べてキヌレニン、キノリン酸が上昇していたがHHV-6では3群に有意差がないものの脳症ではキヌレニン、キノリン酸が高値である症例があることを見出した。インフルエンザ脳症でもHHV-6脳症でもキヌレニン、キノリン酸が関与している可能性があることが分かったため原因ウイルスは違っても共通の宿主反応が起きていることが推定された。このことは小児の急性脳症共通の病態解明の手掛かりとなると考えられた。二つ目はin vitroの脳血流関門モデルを用いてキヌレニン代謝物が中枢神経にもたらす影響を検討できたことである。ラットやサルの初代培養細胞から構成されるキットを用いて、キヌレニンやキノリン酸を投与して、脳血流関門のタイトジャンクション機能の変化を評価した。結果、キヌレニンではなくキノリン酸がタイトジャンクション機能を低下させることが示された。インフルエンザ脳症の結果はMetabolomics誌に投稿し掲載予定である。HHV-6脳症の結果とin vitroの脳血流関門モデルを用いた実験の結果は合わせて投稿準備中である。
平成27年度の結果、キヌレニン及びキノリン酸はインフルエンザ脳症やHHV-6脳症の血清検体で高いことが示された。しかし、インフルエンザ脳症では非けいれん例と差があるものの熱性けいれん症例とは有意差がなく、HHV-6脳症では熱性けいれん症例や非けいれん症例とも中央値の比較解析で有意差がみられなかったので、診断バイオマーカーとしての応用には限界があると考えられた。しかし、インフルエンザ脳症でもHHV-6脳症でもキヌレニン、キノリン酸の高値を示す症例が存在することから、病態への関与が示唆された。特に髄液や血清のキノリン酸が高値の症例は重症例(後遺症を遺した症例)であり重症度と関与する可能性が示唆されたが、今回の検討では重症例が少なかったために統計学的に証明することができなかった。そこで、今後は重症症例を中心に症例を蓄積しさらに定量解析をすすめる予定である。また、近年では脳症の分類として原因病原体ではなく症候別にも分類されるようになった。たとえばAcute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion (AESD)とよばれるタイプの脳症はHHV-6脳症やインフルエンザ脳症でよくみられるサブタイプであるが、生命予後はよいものの、高頻度に神経学的後遺症を遺す。今後は症候性分類でも検討する予定である。また、平成28年度はマイクロRNAアレイを用いてHHV-6脳症症例と非脳症症例の血清中のマイクロRNA定量を行い、発現プロファイルの比較解析を予定している。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
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