平成30年度には,課題3「2つの安定性理論に基づく,上位アルゴリズムの改善」として,近似無平方分解の新たな定義と算法を開発し,下記記載のワークショップと京都大学数理解析研究所の研究集会で速報を発表したのち,計算機実験も踏まえた論文を執筆した(本研究実績の概要記載時において査読中)。本方法では,先行研究で取られている「誤差を係数に含む多項式への無平方分解の直接的拡張」ではなく,無平方部分を拡張した上で,それを用いて近似無平方分解を導入する新たなアプローチを採用している。また,平成29年度に実施できなかったワークショップ「GCD and related topics」を9月11日から3日間開催し,GCDと関連研究の整理に関する講演7件,未解決問題や改善の方向性に関するディスカッション3件などを行った。ワークショップでは,課題3のようなGCDの直接的な応用だけではなく,代数曲面の接合や有理関数近似など,隣接分野への応用に関しても知見が得られた。 本研究の研究期間全体を通しては,課題1「構造化QR分解に基づく近似GCDの数値的安定性の向上」の観点から,依然として査読中となるが,サブルーチンの組み合わせなどによる200 種を越えるアルゴリズムが利用可能な近似GCDの計算ライブラリを構築し,既知のアルゴリズムに対して著しい性能向上を果たした。課題2「パラメータを持つ多項式GCDの数学的安定性の解明」の観点からは,包括的グレブナ系と呼ばれるグレブナ基底を用いてパラメータを持つ多項式のGCD計算法を確立した。この時点では計算速度に課題が残されていたが,別の研究者により解決されている。課題3については,前述のとおり,近似無平方分解の大幅な改善を行った。
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