研究課題/領域番号 |
15K00019
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森田 憲一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (00093469)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 可逆計算機構 / 可逆チューリング機械 / 可逆セルオートマトン / 計算万能性 / 可逆論理素子 |
研究実績の概要 |
可逆コンピューティングは物理的な可逆性を反映した計算パラダイムであり、将来、原子・分子レベルで起こる可逆的な物理現象を直接的に利用した高集積度の計算機を構成しようとしたときに鍵となる。このような視点から、平成27年度は特に、万能可逆チューリング機械の単純化、状態数の少ない二次元可逆セルオートマトンの計算万能性の解明、一次元可逆セルオートマトンによる形式言語認識の研究を行い、以下の成果を得た。 1.万能可逆チューリング機械の単純化: 計算万能性を有する可逆チューリング機械の状態数と記号数をどれほど小さくできるかを研究し、新たに13状態7記号と10状態8記号のものが構成できることを示した。後者は状態数と記号数の積がこれまでの最小である。 2.状態数の少ない二次元可逆セルオートマトンの計算万能性の解明: 三角形状の分割セルオートマトンのうち、3近傍8状態で等方的なものは初等的三角形分割セルオートマトンと呼ばれる。これは、わずか4つの局所遷移規則で規定される極度に単純な並列計算モデルである。そのうち可逆的でビット保存的なものは9種類あるが、6種類が万能、3種類が非万能であることを証明した。また、可逆的でビット非保存的なものの1つは、グライダーやグライダーガンと呼ばれるパターンが存在するなど、多様な現象を発現することを示した。このモデルにおいて、グライダーを信号の担体として用いることにより、万能可逆論理素子が構成できることを証明した。 3.一次元可逆セルオートマトンによる形式言語認識: 形式言語を可逆セルオートマトンによって認識する二種類の並列処理モデルの能力を研究し、メモリー効率の良い認識アルゴリズムを与えた。これにより(非可逆な)決定性線形有界オートマトンと等能力になることを示し、これら二種のモデルでは可逆性制約によって認識能力が下がらないことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画調書には次の4つの研究項目を挙げた:(i)2状態可逆論理素子の万能性の解明とそれによる可逆計算機モデルの構成法、(ii)計算万能な可逆システムの単純化、(iii)可逆計算機モデルにおける効率的な計算法、(iv)可逆コンピューティングの理論の体系化。本年度はこのうち特に(ii)と(iii)について成果が得られた。(ii)については、小サイズの万能可逆チューリング機械に関する成果と、初等的三角形分割セルオートマトンに関する二件の成果を与えた。前者は国際会議 MCU 2015 において発表した。さらに、従来の結果も含めてまとめた解説論文を投稿中である。一方、後者のうちの一件は28年度に開催される国際会議 AUTOMATA 2016 で発表予定である(採録決定)。また、もう一件は他の国際会議の論文として投稿中である。(iii)については、形式言語を認識する二種類の可逆セルオートマトンのための、メモリー効率の良いアルゴリズムを与えることで、非可逆なモデルとの等価性を示した。この成果は、雑誌論文として投稿中である。(iv)については、可逆コンピューティングの理論を体系化した英文単行本の出版を計画している。これまでに大部分の章が出来上がり、現在、全体の調整を行っているところである。(i)については28年度以後に研究する予定である。なお、本年度中に出版・発表した研究論文は多くはないが、上記の成果は現在、数編の論文として投稿中または執筆中で、28年度に発表の見込みである。以上、解決すべき問題やさらに研究すべき課題も残されてはいるが、おおむね順調に研究が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記載の研究項目(i)-(iv)は今後次のように取り組む。(i)については特に、2状態可逆論理素子による可逆計算機の実現法、および、可逆セルオートマトンによる2状態可逆論理素子の実現法について研究する。(ii)については、36種類存在する可逆的初等的三角形分割セルオートマトンの中に非常に興味深い振る舞いをするものが何種類か発見されたので、これらの研究を継続して行い、非常に単純な可逆的空間でどのような機能が発現できるのかを明らかにする。また、万能可逆チューリング機械の単純化の研究も継続して行う。(iii)については、可逆セルオートマトンのみならず、他の可逆計算モデルについても、メモリー効率あるいは時間効率のよいアルゴリズムがどのように設計できるかを研究する。(iv)については、個々の可逆計算モデルの性質の解明にとどまらず、ミクロからマクロに至るいくつかのレベルの可逆計算機構の相互関係の解明を含めて理論の体系化を行う。これらをまとめた英文単行本の出版を目指すとともに、解説論文等の執筆を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「今後の研究の推進方策」に記載した項目(ii)に関連し、興味深い性質を示すいくつかの可逆セルオートマトンの存在が明らかになったため、この研究を発展させ、28年度中に開催される二つの主要なセルオートマトンの国際会議(AUTOMATA 2016, ACRI 2016)で発表する必要が生じたためである。次年度使用額はそのための外国出張旅費として使用する。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、次年度に新たに交付される額と合わせて次のように使用する予定である。可逆チューリング機械、可逆論理回路、可逆セルオートマトンなど、種々の可逆計算機構のシミュレーションを行うことによる、理論的成果の検証は、現有のパーソナルコンピュータを使用して遂行する。従って、そのための消耗品費(プリンタ・インク等)として約20,000円を使用する予定である。また、研究成果発表と情報収集のための国内および外国出張旅費を660,000円と、国際会議の参加登録費を100,000円見込んでいる。
|