研究課題/領域番号 |
15K00033
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
安藤 和敏 静岡大学, 工学部, 准教授 (00312819)
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研究分担者 |
前原 貴憲 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, ユニットリーダー (20751407)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルゴリズム / 協力ゲーム理論 / Shapley値 |
研究実績の概要 |
本研究の目的の一つは,最小費用全域木ゲームのShapley値に対する近似アルゴリズムを開発し,その近似精度評価を行うことである.本年度は,この近似アルゴリズムの基礎となる,任意の費用関数をそれに関連する最小費用全域木ゲームのShapley値が効率的に計算可能であるような費用関数によって近似することを課題にして研究を行った.その結果,下記のような成果を得た. 1.研究計画(3)「部分木距離を表現する木を求めるアルゴリズムの開発」を行った.部分木距離とは最近導入された木距離を一般化した概念であり,系統学などにおいて木距離よりも記述能力の高い系統樹のモデルとしてその研究の発展が期待される.与えられた部分木距離の表現を求めるアルゴリズムの開発は,この研究において基本的かつ重要な課題である.これについては,既に平成27・28年に行った研究によって一定の解決を得たのであるが,本年度はその研究で得られたものよりさらに高速なアルゴリズムを開発した.さらに,この研究成果を論文として取りまとめ,学術雑誌に投稿した. 2.研究計画(5)「Shapley値が厳密計算できる最小費用全域木ゲームのクラスの拡張」に関連する研究で,平成27・28年度に行った研究「閉路完全既約費用関数と閉路完全解に対する効率的なアルゴリズムの開発」があるが,これから発展した研究「閉路完全距離の指標付き準階層構造による特徴付け」について研究を行った.準超距離は指標付き準階層構造と呼ばれるクラスタリング・システムと一対一に対応する.この研究では,閉路完全距離が準超距離の特殊な場合であることに着目し,閉路完全距離を対応する指標付き準階層構造によって特徴付けた.閉路完全距離は今後,系統学やクラスター解析の分野においてさらなる発展が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究実績である研究(3)「部分木距離を表現する木を求めるアルゴリズムの開発」については,既に平成27・28年度に得られたアルゴリズムをさらに改良したものであり,当初の研究計画では想定されていなかったものである.もう一つの研究(5)「Shapley値が厳密計算できる最小費用全域木ゲームのクラスの拡張」に関する成果は,平成27・28年度に行った研究「閉路完全既約費用関数と閉路完全解に対する効率的なアルゴリズムの開発」に基づいたものである.この研究で考察された閉路完全費用関数の概念は非常に興味深いものであったため,これに関連する研究を平成29年度にもさらに推し進めた.これもまた,当初の研究計画には存在しなかったものである.このように,当初予期していなかったものの非常に重要な研究を進めたため,本来行うべき研究,特に(2)「費用関数の木距離による近似に基づく最小費用全域木ゲームのShapley値の近似の実験的評価」については進捗が停滞している.これまでに研究協力者の大学院生とともに計算機実験を進めてきたが,目立った成果が得られないままであった. 本研究課題の当初の研究計画に記載した研究のいくつかについては計画通りに進展しているとは言えないが,本研究課題に強い関連を持ついくつかの重要な研究成果が得られている.こうしたことから,上記の区分のような進捗状況であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度においては,当初の研究計画から遅延が生じている「Shaplay値の近似計算」に関する部分,より具体的には,(2)「費用関数の木距離による近似に基づく最小費用全域木ゲームのShapley値の近似の実験的評価」について,期間を延長して研究を行う.その具体的方法について以下に記述する.研究計画に記載した方法については,研究協力者の大学院生とともに計算機実験を進めてきた結果,期待したような結果が得られなかったため別の方法からアプローチする.別のアプローチとは,与えられた費用関数を複数の{0,1}-費用関数に分解し,そのそれぞれをコーダルグラフの特性関数で近似するというものである.費用関数がコーダルグラフの特性関数であれば,それに関連する最小費用全域木ゲームのShapley値は多項式時間で計算できるため,それらの和を以って与えられた費用関数に関連する最小費用全域木ゲームのShapley値の近似とすることができる.またその際に,費用関数の「木距離度」あるいは「コーダル度」と近似精度の相関を明らかにすることにより,近似アルゴリズムの有効性についての指標を与える.この研究成果を研究集会あるいは学会において発表し,その成果を論文として取りまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を進めている過程で当初は想定していなかった「閉路完全費用関数」と呼ばれる興味深い研究対象を見出した.この研究対象は本研究課題の「費用関数の木距離による近似」の部分に密接な関連を有していることに加え,系統学やクラスター解析などにおいて今後の発展が大いに期待される.したがって,この研究対象について優先的に研究を進めた.しかしその一方で,残りの研究計画,特に(2)「費用関数の木距離による近似に基づく最小費用全域木ゲームのShapley値の近似の実験的評価」については,研究の遅延が生じる結果となった.それに伴って,その研究に使用する予定であった経費の次年度使用額が生じた. 平成30年度においては,この遅延が生じている部分について集中して研究を行う.この研究成果を研究集会あるいは学会において発表し,その成果を論文として取りまとめる.次年度使用額は,この学会発表及び論文出版のための経費として使用する.
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