| 研究実績の概要 |
本研究では，リアルオプション問題を確率制御理論の形で定式化し，その最適解を数値的に導出するプロセスにおいて，確率測度変換に基づく重点サンプリング法を組み入れることにより高速数値解法における新しい枠組みの構築を行った．この主題に加えて，実用上重要となるいくつかの問題における確率モデルの新たな構築を行い，本研究での提案スキームとの組み合わせにより今後の研究展開に繋げていける道筋を立てることを行った．
まず，時間変化していくリスク事象をできるだけ一般的に記述する確率的ダイナミクスを設定し，そのリスクに対する「工学的直接制御」と保険などを利用した「ART (Alternative Risk Transfer=代替的リスク移転)」とを組み合わせることによる保守管理方策を取り入れ，コスト最適化の下で最適なリスク制御の定義を与えた．このとき，最適制御を解析的に導出することは困難であり，ARTに起因するコスト評価において微小損害発生確率を数値評価する必要があるため，従来手法では膨大な計算時間が必要となる．本研究はこの点を大きく改良することが目的であり，ここに上述の重点サンプリング法を用いて新しい数値評価スキームの開発を行った．
これを具体的な問題の一つである，社会インフラの保守管理問題に適用し，その有効性を確認することができた．この成果は査読付き論文「リスク最適制御の数値解法に対する重点サンプリング法の適用」（兼清他，Proc. of JCOSSAR 2019, pp. 15-22）に発表して，非常に高い関心を得ることができた．
本成果をより広げることが実用的観点からの研究を指針とする本研究にとって重要であり，そのために様々な工学上の問題を調査し，鋼構造物の接着補修問題，トンネルあるいは橋梁の保守管理問題，水源揚水井の保守管理問題などへの応用について考察を与えることができた．
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