研究課題
平成29年度は,(1)サブグループ抽出手法(subgroup identification method)の精緻化,(2)適応的指標モデル(AIM:Adaptive Index Model, Tian & Tibshirani, 2011)の拡張法の提案,の二つの研究を実施した.サブグループ抽出手法とは,無作為化第III相試験において,試験群と対照群のあいだの効果量の推定値の差(あるいは比)が最大になる部分集合を抽出する方法である.そのなかでも,本研究では,試験群と対照群の効果量の予測確度に優れた非線形回帰モデルを構築したうえで,当該モデルに基づいてサブグループを抽出する2段階抽出法(Modified Virtural Twin法)を提案している.今年度は,昨年度からの引き続きの研究として,提案モデルに対するシミュレーションを通じた性能の評価,グラフィカル評価手法を提案した.これらの成果は,国際会議2017 IASC-ARS/NZR Conferenceで発表した.適応的指標モデルとは,疾患の進行程度(例:ステイジ分類)などを統計的に構成する方法であり,支持関数によって2値化された共変量に基づく総和を説明変数とした回帰モデルによって構成される.医学系研究,とくに後ろ向き研究に焦点を当てるとき,共変量は,患者の背景因子のような「制御不可能因子」と,治療等の医行為に起因する「不可能因子」に大別できる.本研究では,制御不可能因子の線形結合で調整したうえで,制御可能因子をAIMモデルと同様のモデリングを行う,ハイブリッド・モデリングによる適応的指示モデル,すなわち,HAIM法(Hybrid Adaptive Index Model)を提案した.その成果は,日本計算機統計学会 第31回シンポジウム,国際会議2017 IASC-ARS/NZR Conferenceにおいて発表した.
3: やや遅れている
これまでの研究において,(1) 競合リスクに対する非線形回帰手法,(2)サブグループ抽出手法,(3)ハイブリッド型適応的指標モデル,に対して5種類の方法を開発している.これらの方法は,すべて国内学会で発表しており,とくに,サブグループ抽出手法及びハイブリッド型指標モデルに関しては,国際会議(査読付き)での発表を終了させているものの,いずれも論文化に至っていない.学会発表で研究が一時中断しているこれらの方法を至急に論文として公表する必要がある.論文化が遅れている原因としては,(1)医学系研究の共同研究の増加,(2)本学臨床研究センターの管理業務の拡大が挙げられる.医学系研究の共同研究の拡大の要因の一つは,共同研究依頼が増加したこととともに,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針,臨床研究法などのレギュレーション改定及び新設によって,臨床研究への生物統計家の関与の必要性が高まっていることに寄与する.また,臨床研究センターの管理業務に関しては,上記レギュレーション等に対応するための管理業務が数多く発生し,それに伴うエフォートの増加が寄与する.
本研究の最重要課題の一つが,これまでの研究成果を取りまとめた論文公表である.具体的には,競合リスクに対する生存時間ABLE(Adaptive Binary Learing Estimator)法およびMARS法(Multivariate Multivariate Regression Spline)法,修正Virtual Twin法,HAIM法の4手法を至急に論文化しなければならない.また,昨年度に引き続き,傾向スコア分析の文献調査等を行ってきたが,傾向スコア分析における傾向スコアの推定方法に関しては,新たな方法が提案できるかもしれない.傾向スコアの推定には,近年,RandomForest法あるいはBoosting法などの非線形回帰モデルの適用が目立ってきている.他方,高度な非線形回帰手法の適用は,傾向スコアによる識別性能を過剰に高め,その結果として,後続の分析に結び付かない恐れがある.高度な非線形回帰モデルの適用は,3群以上への拡張において真価を発揮すると期待している.今後の研究では,これらの適用方法の利点及び問題点を明らかにするとともに,3群以上の場合に用いられる一般傾向スコアに対する非線形回帰手法の開発に注視したい.また,クラスターランダム化比較試験,あるいはアウトカムの経時繰り返し測定を伴う研究では,データが巣ごもり上になるとともに,各被験者(あるいはクラスター)に対して相関構造をもつ恐れがある.AIM法の開発では,これらのデータを解析するために,一般化線形混合効果モデル,あるいは階層Bayesモデルの枠組みで拡張を図りたい.
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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