研究実績の概要 |
近年,疾患レジストリ研究などにおいて,大規模な後ろ向き観察研究データから,任意の治療法が有効なレスポンダーを抽出する方法,あるいは,二つの治療法に対する治療効果を推定する方法が注目されている.令和元年度は,観察研究におけるHTE(Heterogeneity Treatment Effect)を推定するための統計的方法について研究を行った.このとき,アウトカムとしては,医学系研究において最もニーズが高いと考えられる生存時間データに焦点を絞った. このとき,新たな手法の提案には,二つの方向性を考えた.一つは,治療効果をより精度よく推定する方向性,もう一つは,治療効果が高い(あるいは低い)部分集合の抽出である.前者の応用例としては,例えば,「○○のような背景情報をもつ患者に対して新治療は既存治療よりもどの程度の有効性を示せるか」を精度よく推定できる.後者は,「○○治療が有効な患者背景は何か」を推定できる.すなわち,これらの方法は,患者から治療を見るのか,あるいは治療から患者を選ぶのかという表裏一体の関係にある. 前者の方法としては,樹木モデルの各ふしに基づくルールを基本学習器に用いたRuleFit法(Friedman & Popescu, 2008)をPTOフォレスト(Powers et al, 2018)のアルゴリズムのもとで拡張したPTO-RuleFit法を提案した.また,Powers et al.(2018)によって提案された因果MARS(Causal MARS)法の傾向スコアによる重み付けを修正するとともに,Baggingによるアンサンブルを行うことで,予測確度が向上することを明らかにした. 後者の方法としては,PRIM(Friedman & Fisher, 1999)の目的関数に境界平均生存時間の差の統計量を用いた方法を提案した.
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