本研究では,感情推定技術のソフトウェア工学への応用を目指し,技術開発を行ってきた.初年度から2年目に掛けては,感情極性値とソフトウェアにおけるバグ等の関係を調査し,また,任意の開発プロジェクトのリポジトリから感情極性値の推移を取得するツールの作成を行った.最終年度では,2年目までに開発したマイニングツールから得られるデータにより,感情値の分析を行い,開発プロジェクトごとに生じる差異の分析から,プロジェクトの特性を分析した. まず,感情値とその他のソフトウェアメトリクスの関係は明らかになっていないため,これらの関係を明らかにするための統計分析を実施する.さらに,本研究の目的である品質・生産性を示すメトリクスも導入し,感情値によって最も適切に説明できるモデルの作成を目指した. 複数のオープンソースソフトウェアプロジェクトに対して,感情極性値の時間的な推移を取得し,それらの間での差異の分析を行った.その結果,開発するソフトウェアの種別の違いによって,感情極性値の推移が変化することが確認された.一方で,不具合の混入・発生との間では有意な違いを発見するには至らなかった.なお,分析を行う際に発見した事実として,ソフトウェアの作成過程で半自動で作成されたコミットの内容が感情極性の算出において,大きな影響を与えていた.このことは,感情推定を行うためには,さらにデータを洗練して適用すべきであり,今後の課題としてデータのクリーニングが必要だと考えられた.
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