研究課題
本研究の目的は,組み込みシステムやレガシーシステムのような実装コードの変更が困難であるソフトウェアに対して,その可変性(変更容易性)を向上させる技術を確立することである.具体的には,環境の変化に応じてシステム構成を自発的に変化させる自己適応ソフトウェア(self-adaptive software)の適応メカニズムを拡張利用することで,既存コードと追加コードを効果的に共存させ,適応メカニズムにより適切に制御を切り替えることで,コードの書き換えではなく,追加と切り替えによる変更を実現する.平成27年度は各実施計画に従って以下を実施した.テーマ1.ゴールモデルに基づいた機能拡張手法の確立:記述パターンを利用してゴールモデルと設計モデルとを関連付ける手法を検討した.また,機能拡張ポイントを同定する手法として,自然言語で記述された要求に対して,特定のキーワードに関連する語を含むようなキーワード拡張手法を検討した.テーマ2.自己適応メカニズムに基づいた機能拡張エンジンの構築:変更を実装するための機能拡張エンジンとして,自己適応メカニズムを実現するミドルウェアの仕様を検討した.また,研究代表者がすでに実装していた自己適応システムプログラミングフレームワークを組み込みシステム上でも動作可能なように軽量化したフレームワークを実装した.本フレームワークは,本研究で構築する機能拡張エンジンの基盤となるものである.
2: おおむね順調に進展している
テーマ1については,記述パターンを利用してゴールモデルと設計モデルとを関連付ける手法を提案し,電子情報通信学会論文誌に学生の論文が秀逸論文として採録されるなど,一定の成果を挙げることができたと考える.ただし,機能拡張を実現するためには,ゴールモデルにおいて変更箇所(拡張ポイント)を同定する手法の検討など更なる手法の検討が必要であると考えられ,今年度は引き続きテーマ1の内容を充実させる予定である.テーマ2については,機能拡張エンジンを実現するための土台となる自己適応システムプログラミングフレームワークが構築でき,また,同研究成果が自己適応システム分野における最高峰の国際会議SASO2015(The 9th IEEE International Conference on Self-Adaptive and Self-Organizing Systems)のDemonstrationセッションに採録され,発表の場を得られるなど,こちらも一定の成果を挙げることができた.一方で,テーマ1の研究成果をもとに検討が必要な箇所,すなわち,同定された変更箇所に対しての実装支援に関する部分については未検討であるため,これらについては今年度も引き続き検討を進める必要がある.一方で,研究成果の評価実験については,自動清掃ロボットや小型無人航空機(UAV)などの対象システムの調査を進めることができたため,今年度の実証実験についてはスムーズに開始できるものと考えている.
今後は,今年度に引き続き,テーマ1とテーマ2の実施内容を完遂させる.まず,テーマ1「ゴールモデルに基づいた機能拡張手法の確立」については,ゴールモデルにおいて変更箇所(拡張ポイント)を同定する手法を主に検討する.併せて,テーマ2「自己適応メカニズムに基づいた機能拡張エンジンの構築」については,テーマ1の研究成果をもとに検討が必要な箇所,すなわち,同定された変更箇所に対しての実装支援に関する検討を進め,機能拡張エンジンを完成させる.その後,テーマ1,2の成果を利用した,既存ソフトウェアの機能拡張実験を実施するために,実施内容を検討し,検討結果に従って実証実験を実施する.並行して,これらの成果をそれぞれ国内シンポジウムや国際会議へ投稿し,研究成果を発表する.もし,既存ソフトウェアと機能拡張エンジンとの親和性が低く,拡張が限定的である場合は,本研究で扱う機能拡張の範囲を明確に定義する.機能拡張が可能な要求の範囲や,機能拡張が可能となるソフトウェアの条件を明らかにし,拡張レベルに応じたカテゴリを定義し,各カテゴリに応じた機能拡張メカニズムを検討・提供する.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
電子情報通信学会論文誌
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