研究課題/領域番号 |
15K00128
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
阿部 匡伸 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (70595470)
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研究分担者 |
原 直 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (50402467)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 見守り / プライバシー / 認知症 / 生活圏 / GPSデータ |
研究実績の概要 |
1.認知症患者に関する調査 認知症患者に直接アンケートを取ることは困難であることが判明したことから,長く認知症患者を診ているベテラン看護師に認知症患者の徘徊の実態,認知症の症状などについて聞き取り調査を行った.その結果,①患者は自らの認知症の進行を認知できておらず,徘徊したという事実すらも忘れてしまう.②見守る家族としては患者が自らの危険を認知できていないため不安がつのる.③認知症の進行は単調ではなく,突然悪化することが多い.④重度になると人の目を盗んで外出するようになり,裸足で徘徊する場合もある.等が明らかとなった. 2.プライバシーを考慮した見守りシステムの検討 1項の調査結果を踏まえ,認知症患者を見守るシステムの要件として,①認知症患者を均質に捉えるのではなく,認知症の進行度合いに応じた対応ができること,②認知症の進行度合いは本人が自覚できないことから,何らかの方法で進行度合いが把握できること,③認知症の度合が進んだ場合にはきめ細かい見守りが可能になるようにできること,を設定した. この要件を満たす見守り方式として,粗い粒度と細かい粒度の2つの粒度の生活圏を利用する見守りシステムを提案した.粗い粒度の生活圏は,認知症患者を見守る領域である.この領域から認知症患者が逸脱した場合,通常の行動範囲から離れたと理解し,家族等の見守り側に逸脱した場所を通知する.一方,細かい粒度の生活圏は,認知症患者の細かな行動を監視するための領域である.この領域から逸脱した場合,通常とは異なる経路を通っていることになる.この逸脱が頻繁に生じる場合に迷子状態にあると判定する.さらに,迷子状態が頻繁に生じた場合には,認知症が進行したと考え,粗い粒度の生活圏を一段階小さくし,詳細に見守るようにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.認知症患者に関する調査 認知症患者の家族の会岡山支部にコンタクトをとり,27年度に一般人で事前実験したアンケート調査を試行した.その結果,認知症患者を持つ家族は懸命な生活を送っていることから,アンケート調査には適さないとのコメントを頂いた.代案として,認知症患者と以前に暮らした経験がある家族,あるいは,数多くの認知症患者と接した経験のある看護師,からの聞き取り調査を検討し,後者を実施した.認知症患者は個人による症状が大きく異なるため,様々な事例を知っている方から,エッセンスを聞き出せたことは有益であった.これに基づき,認知症患者の見守りシステムの新たな要件を抽出することができた. 2.プライバシーを考慮した見守りシステムの検討 27年度に構築した生活圏抽出アルゴリズムを用いて,複数の粒度を用いた見守りシステムの基本検討を行った.生活圏を表現する粒度が粗ければ,患者の位置が曖昧であるため,プライバシーを守ることができる.認知症が軽い場合は,粗い粒度で見守るだけで十分である.健常者のデータを用いて,統計的に求めた生活圏からの日々の経路の逸脱量を明らかにした.また,迷子状態をシミュレーションして迷子検知をしたところ,F値0.9程度で検出が可能であることが明らかとなった.実験結果から,2つの粒度の生活圏を利用して,認知症の進行度合いに応じて見守り領域を適切に制御できる方式が実現できると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
1.プライバシーを考慮した見守りシステム 2つの粒度の生活圏を利用する見守りシステムをスマートフォンとクラウドサーバで構築する.スマートフォンを単にGPSデバイスとして利用するのか,あるいは,認知症患者への情報提供デバイスとして位置付けるかを検討する.認知症患者の協力をえることが難しい場合は,子供の見守りを想定してアプリを構築することも検討する.
2.生活圏の時間変動の検討 迷子検知をする場合,日々の細かな変動に加えて,年単位の大きな変動も重要である.過去の5年間のデータを用いて,年単位の変化を明らかにし,対応を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度の評価実験ではデータの整理が不要となっため,人件費・謝金を使用せずに済んだ.
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次年度使用額の使用計画 |
29年度の評価実験のデータ整理のための人件費・謝金に利用する.
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