研究課題/領域番号 |
15K00136
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
萬代 雅希 上智大学, 理工学部, 准教授 (90377713)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | モバイルネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は,多様な通信品質の要求に対応可能な複数の通信経路を活用する新しい高速大容量無線ネットワーク機構を確立することを目的としている.平成29年度はミリ波帯を含む複数経路を用いる無線ネットワークにおけるトランスポート層プロトコルの研究に取り組んだ.さらに,具体的なアプリケーションとして動画像ストリーミングにおけるユーザの体感品質向上に関する研究に取り組んだ.具体的には,主に以下の二つのサブテーマに取り組んだ.
1)ネットワーク状態に基づくトランスポートプロトコル: 本サブテーマでは,無線ミリ波帯の特質を考慮したミリ波切断後の通信再開までに要する時間を短縮するトランスポートプロトコルについて検討した.今年度は,複数経路使用時においてミリ波リンクの切断時に他リンクに与える影響に関して,ミリ波リンクの通信切断時にミリ波リンクおよび他リンクの両方の通信経路で通信再開までに要する時間を計算機シミュレーションで評価した.その上で,両リンクの通信再開時間までに要する時間を短縮する方式を提案し,その性能をシミュレーション評価した.
2)アプリケーションレベルでのスケジューリング方式: 本サブテーマでは,引き続き階層符号化を適用した動画像ストリーミング方式に関して検討した.今年度は,実際の無線環境を実験で測定し,無線ネットワーク環境の変動をモデル化した.モデル化した環境をネットワークエミュレータで再現して,提案したストリーミング方式を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き,各種手法を提案し性能評価を行なっている.ミリ波の特質を考慮したトランスポートプロトコルのサブテーマにおいては,まず,従来のミリ波リンクを含む複数経路環境におけるマルチパスTCPでは,ミリ波リンクが遮蔽等によって切断されると,ミリ波リンク以外のリンクでも通信が不能になることを計算機シミュレーションで定量的に明らかにした.その上で,その問題を解決するために,昨年度までに構築したミリ波リンクの切断をトランスポート層における往復伝播遅延(RTT)の変化で検出する手法を,複数経路環境に対応できるよう拡張し,その有効性を確認した.また,アプリケーションレベルでのスケジューリング方式のサブテーマでは,まず市街地でのスマートフォンを使ったスループット測定実験を行い,無線ネットワークの時間変化を調査した.測定データに基づいてネットワークエミュレータを設定した実験用ネットワークでストリーミングに関する評価を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでに考案した複数経路に対応したトランスポートプロトコルを動画像ストリーミング等の実際のアプリケーションに適用し拡張することを予定している.複数経路環境下では,経路切断や経路ごとの通信帯域の相違,遅延時間差等のネットワーク状態の変化がアプリケーション層に与える影響について調べる必要がある.その上で,ユーザの体感品質などを向上させる手法を考案する予定である.また,アプリケーションレベルで動画の内容に応じた制御を取り入れるなどの発展についても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
現有の計算機環境で各種方式の性能評価を行ったため,実験環境に追加の設備が必要がなかったためである.また,現在一部の研究成果を学術論文誌等に投稿しており,今後,論文掲載料や国内外の学会での成果発表に旅費および会議参加登録費が必要と見込まれるためである. 次年度は,より計算資源が必要な実験を行うための消耗品等の購入と,学術論文誌および国内外での学会参加に必要な経費として使用することを予定している.
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