研究課題/領域番号 |
15K00137
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
加藤 由花 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (70345429)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人移動モデル / 移動ロボット / ロボットとの共存 / 案内サービス / 人属性推定 / 屋内環境センシング |
研究実績の概要 |
本年度は,ロボットとの相互作用を考慮した人移動モデルの構築を目指して,(1)環境内に設置されたセンサにより人間の歩行を観測するシステムの構築;(2)人が保持するモバイル端末などから取得されるセンシングデータを基に人の属性や状態を推定する手法の提案;(3)環境の物理的な形状を基に初期人移動モデルを構築し取得データによりそのモデルを更新する手法の提案,という3つの研究課題に取り組んだ.最終的には,課題1と課題2から得られる情報を統合し,課題3で構築するモデルに組み込むことになるが,本年度はその第一段階として,各課題ごとに研究を進めた. まず,課題1として,単一の測域センサにより人の足首の動きを測定するシステムの構築を行った.ここではセンサから人までの距離を時系列データとして取得し,ベイズフィルタを用いてある時刻の人の位置を確率分布として推定する.足首の動きを測定することで,人移動データと合わせて歩容データの取得が可能になり,これにより人属性(高齢者/若年者)の分類が可能になることを明らかした. 課題2としては,ウェラブル端末で測定される脈拍データを利用し,ストレス状態およびリラックス状態を推定する指標を提案した.ここでは,脈波のピーク間隔のゆらぎとストレス状態に関連があることを利用し,被験者実験によりその有効性を検証した.この結果は,課題1の人属性分類結果と合わせて,属性や状態ごとにクラスタリングを行った人移動モデルを構築する際に利用していく. 課題3としては,Social Force Modelとして知られるHelbingの歩行者モデル(人が環境から仮想的な斥力を受けると仮定し人の移動を推定するモデル)を利用し,環境形状のみを考慮した人移動モデルを構築した.ここでは人がある場所に存在する確率分布を定義し,観測データにより逐次的にモデルを更新する手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初,誘導ロボットを配備した環境で人間の歩行を観測し,観測データを用いた人移動モデルを構築すること,および,人が保持するモバイル端末などからセンシングデータを取得し,属性や状態の推定を行うことの2つを計画していた.後者に対してはほぼ予定どおり研究が進み,環境側センサによる人属性の推定,ウェラブル端末による人状態の推定が可能になった.一方,前者に対しては,以下2つの理由により,実機を用いた観測データの測定を行わなかった. 1つは,誘導ロボットの発注,納品が遅れたため,実機を用いた実験自体を延期したことである.当初計画では,ロボット用ソフトウェアにはROSを利用し,ロボットにはネットワーク経由での遠隔操作機能とSLAM機能を搭載し,教示走行により地図作成を行った上で,遠隔地からオペレータが目的地を指定することとしていた.本年度,実機実験は行えなかったが,操作機能についてはシミュレータを利用して実装済であり,次年度以降すみやかに実験を行う環境を整えた.もう1つは,当初観測データを用いたモデル構築を考えていたが,検討の結果,環境形状のみで初期モデルを構築しておき,それを観測データにより逐次更新する方式を採用したことである.これにより,モデル構築のためのデータ取得が不要になった. これらを総合的に判断すると,実機実験は延期したが,人移動モデルの構築という当初の目的はほぼ達成されており,研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,提案した人移動モデルのシミュレーション評価,人属性や人状態を考慮したモデルの構築,実機実験等を行うことにより,人移動モデルに基づいた移動予測アルゴリズムの開発を行う.ここで,移動予測アルゴリズムは,ロボットの存在や動作を前提に設計する.人間はロボットとの共存に慣れるにつれ,ロボットの回避をある程度予測して行動するようになると推測される.これらの行動を,移動予測アルゴリズムに取り込んでいく.また,人移動モデルは,属性や状態ごとにクラスタリングを行い,アルゴリズムの精度向上を目指す. そののち,移動予測アルゴリズムに基づいた,目的地までのロボットの経路生成手法を明らかにする.ここでもシミュレーション実験および実機実験を行い,ロボットと人の接触率(または接近率)を評価し,提案手法の有効性を検証する. 最終的に,移動ロボットの人回避機構を実現することで,誘導ロボットを様々なサービスへ展開することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実機実験を次年度に延期したため.購入予定であった実験用機器(Laser Range Finder)を購入しなかったため.また,為替変動のため,海外出張旅費および学会参加費が当初予定していた金額より少なかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度購入予定であった物品(Laser Range Finder)の購入に充てる.
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