研究課題/領域番号 |
15K00144
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
藤原 一毅 国立研究開発法人情報通信研究機構, ユニバーサルコミュニケーション研究所データ駆動知能システム研究センター, 主任研究員 (90648023)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、次世代のスーパーコンピュータにおいてノード間の通信遅延を理論的下限に到達させることを目指し、それを実現する高効率なネットワーク構成法を追究している。本研究では、下記3つのアプローチで通信遅延の理論的下限に迫った。 1. 単方向リンクの利用: 任意のノード数・次数(ポート数)で直径の小さい有向グラフの作り方が知られている。この有向グラフをネットワークトポロジとして利用するために、単方向リンクを用いたネットワーク構成法を提案し、その上で実行されるアプリケーション性能をシミュレーションで評価した。この成果は現在、国際会議に投稿中である。 2. グラフ探索による直径削減: 与えられたノード数・次数で直径の小さい無向グラフを探す問題はOrder/Degree問題と呼ばれるが、その効率的な解法については研究が進んでいなかった。これに対し我々は、小直径グラフ探索コンペ「Graph Golf」を開催し、直径の小さいグラフとその構成法を広く一般から募集した。2016年のコンペには131件の有効投稿があり、優れた解の作者7名を国際会議CANDAR'16で表彰した。本コンペは次年度以降も継続的に実施する予定である。このほか、ケーブルの物理的配置を陽に考慮したトポロジ最適化手法を提案し、現実的な条件においても理論限界に近い低遅延ネットワークを構築できる見通しを得た。 3. 非正則グラフの活用: これまでの検討ではグラフの次数(各ネットワークスイッチに接続されるケーブル数)は均一であるという前提を置いていたが、次数を不均一にすることができれば、同じノード数をもつグラフの直径をさらに削減できることが明らかになった。そこで、このような非正則グラフに基づくネットワーク設計を提案し、有効性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. 単方向リンクの利用: 単方向リンクを用いるアプローチに関しては、シミュレーション評価結果の論文投稿をもって一旦完結した。 2. グラフ探索による直径削減: 平成27年度に引き続き、小直径グラフ探索コンペ「Graph Golf」を開催した。これにより、予想を上回る多分野の参加者から多様なアイディアを得ることができた。また、研究が当初の計画より速く進展したことを踏まえ、ケーブルの物理的制約を踏まえた新たなアプローチの探求に注力した。具体的には、マシンルーム内の配線上の制約を陽に考慮した長さ制限付き格子グラフの理論的解析および最適化手法を提案した。 3. 非正則グラフの活用: 我々はさらに、伝統的なネットワーク設計の前提を覆すことで通信遅延のさらなる削減を探求した。伝統的な直接網は各ネットワークスイッチに接続されるケーブル数が同じ、すなわち正則グラフとなるように設計される。この前提を覆し、スイッチごとに異なる数のケーブルを接続することで、同一規模(ノード数)のネットワークであっても直径をさらに小さくできることを明らかにした。この知見を踏まえ、非正則グラフに基づく相互結合網の構成手法を提案した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は全体として当初の計画を上回る速さで進展したことから、最終年度となる平成29年度は、これまでの成果を社会へ還元する取り組みを推進する。 1. 第3回「Graph Golf」の開催: 「Graph Golf」は、超低遅延ネットワーク設計に役立つグラフ構成アルゴリズムを広く集めることができ、研究全体を加速・深度化する効果が高かったことから、平成29年度も引き続き開催する。 2. グラフデータベース「Graph Bank」の創設: 「Graph Golf」ではOrder/Degree問題の解を収集したが、この他にも、工学的に有用であっても理論的研究例がないグラフ問題が存在する。このような知の空隙を埋めるため、さまざまなグラフを網羅的に蓄積し、性質や特徴量を用いて有用なグラフを検索できるサービスとして「Graph Bank」を創設することとした。平成27年度「Graph Golf」優勝チームの協力を得て、Order/Degree問題の解のデータベース化を手始めに、幅広い分野の研究者や実務家が活用するグラフのコーパスとして世界で唯一の存在になることを目指す。これにより、本研究を通じて得られた知見を幅広い分野の理論家・実務家に提供するだけでなく、本研究の終了後も知的基盤として存続するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
単方向リンクの利用に関する研究を一旦完結させたこと、同研究の国際会議発表がなかったこと、および「Graph Golf」開催に伴う経費がほとんどかからなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
「Graph Bank」創設にかかるシステム開発費として使用する。
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