本研究は、次世代のスーパーコンピュータにおいてノード間の通信遅延を理論的下限に到達させることを目指し、それを実現する高効率なネットワーク構成法を追究してきた。具体的には、下記3つのアプローチで通信遅延の理論的下限に迫るとともに、その成果の社会還元に努めた。 1. 単方向リンクの利用: 任意のノード数・次数(ポート数)で直径の小さい有向グラフの作り方が知られている。この有向グラフをネットワークトポロジとして利用するために、単方向リンクを用いたネットワーク構成法を提案し、その上で実行されるアプリケーション性能をシミュレーションで評価した。この成果は大規模計算機分野の著名な国際会議IEEE CLUSTER 2017に採択された。 2. グラフ探索による直径削減: 与えられたノード数・次数で直径の小さい無向グラフを探す問題はOrder/Degree問題と呼ばれるが、その効率的な解法については研究が進んでいなかった。これに対し我々は、小直径グラフ探索コンペ「Graph Golf」を開催し、直径の小さいグラフとその構成法を広く一般から募集した。2017年のコンペには269件の有効応募があり、優れた解の作者5名を国際会議CANDAR'17で表彰した。本コンペは次年度以降も継続的に実施する予定である。 3. グラフデータベース「Graph Bank」の創設: 「Graph Golf」ではOrder/Degree問題の解を収集したが、この他にも、工学的に有用であっても理論的研究例がないグラフ問題が存在する。このような知の空隙を埋めるため、さまざまなグラフを網羅的に蓄積し、性質や特徴量を用いて有用なグラフを検索できるサービスとして「Graph Bank」を創設した。本サービスは本研究の終了後も知的基盤として存続し、本研究を通じて得られた知見を幅広い分野の理論家・実務家に提供する。
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