研究課題/領域番号 |
15K00191
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研究機関 | 埼玉工業大学 |
研究代表者 |
渡部 大志 埼玉工業大学, 工学部, 教授 (80337609)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体認証 / 耳介形状 / 耳介認証 / ロバスト性 / セキュリティ / 法科学 |
研究実績の概要 |
本研究の特色は,生体認証にその有用性にもかかわらず研究が進んでいない「耳介」を用いることにある.耳介のパターンは個人により異なりかつ,指紋や虹彩より大きいため,機器への接触なしに遠くから個人を識別できる利点がある.申請者はGabor Jetや判別分析等を利用し首を左右に振る,ないしは傾けたときに生じる耳介の角度変化にロバストな耳介認証の研究を行ってきた.この研究を発展させ,下記4項目 1.撮影角度が異なる画像の推定手法改良によるロバスト性向上の可能性 2.耳介の撮影角度を推定するアルゴリズム 3.耳介の検出・特徴点探索手法の改良によるロバスト性向上の可能性 4.耳介特徴点の発生異常や事故での欠落,髪の毛や耳介自身による遮蔽を自動的に判断するアルゴリズムについて検討し,防犯カメラの耳介画像から捜査対象者リストを作成する捜査支援システムの実用化を研究目的としている.交付申請書では,1,2年次に研究目的に挙げた4項目のうち認証精度改善に関係する項目1,2を,3年次に概ね検出精度改善に関係する項目3,4の研究を計画していた.そして1,2年次研究の具体的内容として,「1-(a) 法線を立てる特徴点の検討」,「1-(b) 法線モデルの計算方法,数の検討」,「1-(c) 漸近展開精度向上の検討」,「1-(d) 耳介データベースの大規模化の検討」,「1-(e) 特徴量強調方法の検討」,「2-(a) 入力画像中の耳介角度を推定する手法の検討」,「2-(b) 耳介の張り出し角度の統計的調査検討」の7項目を調査研究対象としていた.この7項目のうち1-(a),1-(e) , 2-(a)の3項目について研究に具体的な進展があり,昨年度5件の学会発表(内1件国際会議)と1件の技術報告と1件の学術論文を公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1-(e) 特徴量強調方法の検討:特徴量の個人差を上げられれば識別精度が上がり有益である.本年度は撮影角度に応じてGabor関数自体を変形することで識別精度が上げられることを明らかにし,学術論文として発表した. 2-(a) 入力画像中の耳介角度を推定する手法の検討:被疑者が後ろから撮影されていて顔は判別できないが耳介は明瞭に映っている場合に,耳介画像が犯罪捜査へ利用されることがある.しかし,これらの耳介画像の照合精度は現状ではあまり高くない.その理由は,耳介の張り出し角度の個人差が大きく,背後からの撮影でも明瞭に耳介が観察される人物がある一方で,特徴点が明瞭に捉えられない人物が多く混在するためである.もし耳介角度正規化の方法が明らかになれば,背後からでも明瞭に撮影されている耳介は照合可能になるので,防犯上大変有益である.本年度は,昨年度に引き続き耳介の周辺画像のGabor特徴を利用して,耳介の撮影角度を推定する手法の開発を試みた.PCAを利用することで撮影角度の推定精度を昨年度の精度から20%改善できることを明らかにし,国際会議で発表した. 1-(a) 特徴点の検討:3次元点群特徴量であるSHOTによる耳介認証を検討した.SHOTでは特徴点(キーポイント)は3次元座標系において構成したボクセルグリッドの重心に定める.この点は点群の撮影角度によって変わりうる.本年度はUNDデータベースを利用して,撮影角度の異なる耳介点群間で照合実験を行った.結果,照合精度は同じ撮影角度の点群に比べごくわずか(2%)程度しか下がらないことを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,申請書中の未了項目と進展の見られた項目も含めて,撮影角度が異なる画像の推定手法,耳介撮影角度の推定手法,特徴点検出の精度向上の可能性を探る. 3-(a) 特徴点抽出の改良:特徴量の回帰で1秒間に3000フレームの速度で顔の特徴点を追跡する手法が国際会議CVPR2014で提案されている.この手法の耳介特徴点への適用報告はないので,耳介特徴点に適用可能か,検出精度はどのくらいか検討する. 3-(b) 特徴点の有効性の自動判断の検討:上記の回帰の結果自体を検定することで,特徴点が有効と判断可能かどうか検討する. 2-(a) 入力画像中の耳介角度を推定する手法の検討:耳介の顔に対する張り出し角度は人により異なるため,顔の角度だけで耳介角度は定められない.また耳介は顔の中の両目や鼻の頂点のような向きの推定に役立つ指標が乏しい上に顔より小さいので,耳介画像だけで耳介角度を決定するのは難しい.そこで顔の角度を推定し,2-(b)で求めた耳介の張り出し角度の統計的分布を事前分布とすることで耳介角度のMAP推定やベイズ推定を試みる. 1-(b)法線モデルの検討:①種々のクラスタリング手法で複数のグループに分類し,複数の法線モデルを用意し認証率の向上を図る.②顔認証で利用される別姿勢特徴量推定法のうち,重回帰や特異値分解による別撮影角度の特徴量推定法は,サンプル数が多ければ研究代表者の先行研究に匹敵する精度が期待できる.外れ値,欠損値の扱いなどを考慮し,更なる改善を試みる. 1-(d) 耳介データベース大規模化の検討:1-(b)のモデリングでは,各グループのデータ数が多いほど法線ベクトルモデル等の3次元統計モデルが高い精度で作れると考えられる.モデル作成に用いる耳介画像の数を,研究室の多方向耳介画像撮影システムで増やす.また,他に利用可能な公開データベースの有無も検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
物価の変化,研究協力者の想定した労働時間と実労働時間との差に伴う謝金の変化,学会発表の予定数とアクセプト件数との差に伴う学会参加費の変化等が理由で次年度使用額が若干生じたが,想定の範囲内である.
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次年度使用額の使用計画 |
以下3費目を計上する:①耳介画像提供者への謝礼②研究補助者への謝金③学会参加費,旅費,論文出版費.各費目の必要性について説明する.①今後の研究の推進方策の1-(d)で,法線モデル安定化のため耳介画像数を増やす旨述べた.撮影協力者を年齢や性別に偏りなく多く集めるには撮影の協力を呼びかける広告や記念品の提供などが必要である.そのための費用を計上する.②撮影後の多数の画像からGround Truth Dataを作成することは大変骨の折れる作業である.この作業のアルバイト謝金を計上する.③研究成果を社会に発信するため,IEEE等の学会や学術雑誌で発表を行う.学会参加費, 旅費,学術雑誌の掲載費を計上する.
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