研究課題/領域番号 |
15K00192
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
栃窪 孝也 日本大学, 生産工学部, 准教授 (60440038)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 秘密分散法 / しきい値法 / アクセス構造 / 情報セキュリティ / 情報比 |
研究実績の概要 |
暗号で利用する秘密情報の安全な保管などで利用される秘密分散法は、情報の盗難対策と紛失対策の両方に有効な情報化社会においてニーズの高い技術であるが、秘密情報を復元する権限を持つ管理者のグループ(アクセス集合)の集まり(アクセス構造)に制限のない一般アクセス構造を実現する秘密分散法は管理者に数多くの分散情報を割当てることで実現している。このため、元の秘密情報と管理者が管理する分散情報との比(情報比)に着目すると、(k, n)しきい値法のように方式が最適な場合の情報比が1であるのに対し、多くの場合、管理者の保管する情報が多くなり、情報比が小さくなってしまう。階層構造になっている組織において、上位の階層に属する分散情報の管理者は、多くのアクセス集合に属することになり、結果として管理する分散情報が多くなり情報比が小さくなってしまう。したがって、分散情報の管理者ごとの情報比の制約までも考慮する秘密分散法は実社会におけるニーズが非常に高いと考えられる。 平成28年度は、前年度に提案した指定した管理者に割当てられる分散情報の数を削減可能な極小アクセス集合に基づく一般アクセス構造を実現する秘密分散法を管理者数が5人のすべての場合である180通りのアクセス構造に適用し、分散情報の管理者ごとの分散情報の割当て数などを明らかにし、提案手法の有効性を検証した。また、管理者数が4人以下のすべてのアクセス構造に対して、排他的論理和演算のみで高速に秘密情報の分散および復元が可能な秘密分散法を提案した。さらに、すべての管理者の中から指定したグループに割り当てられる分散情報を削減可能な極大非アクセス集合に基づく一般アクセス構造を実現する秘密分散法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般アクセス構造を実現する秘密分散法は、極小アクセス集合、または、極大非アクセス集合に基づいているが、平成27年度は、指定した管理者に割当てられる分散情報の数を削減可能な極小アクセス集合に基づく一般アクセス構造を実現する秘密分散法を提案し、管理者数が4人以下のすべてのアクセス構造に対して提案方式を適用し、分散情報の管理者ごとの分散情報の割当て数などを明らかにし、提案手法の有効性を検証した。平成28年度は、平成27年度に提案した手法を管理者数が5人のすべての場合である180通りのアクセス構造に適用し、分散情報の管理者ごとの分散情報の割当て数などを明らかにし、また、従来手法についても180通りのアクセス構造すべてに適用して提案手法の有効性を検証した。また、排他的論理和演算のみで秘密情報の分散および復元が可能な秘密分散法は、(k, n)しきい値法に対するアクセス構造の場合のみ提案されていたが、管理者数が4人以下のすべてのアクセス構造の中で(k, n)しきい値法で実現できないアクセス構造のすべてに対して排他的論理和演算のみで高速に秘密情報の分散および復元が可能な秘密分散法を提案した。さらに、すべての管理者の中から指定した特定のグループに割り当てられる分散情報を削減可能な極大非アクセス集合に基づく一般アクセス構造を実現する秘密分散法を提案した。一般に、階層構造になっている組織において、上位の階層に属する管理者は多くの秘密を復元する権限のあるグループ(アクセス集合)に属することになるので管理する分散情報の数が膨大になってしまうが、この提案手法により、上位の階層に属する管理者の管理する分散情報の数を削減することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、実社会で利用される可能性が高い特定のアクセス構造に対して効率のよい方式だけではなく、任意のアクセス構造を対象とした方式の両方を扱う。一般に、階層構造になっている組織において、上位の階層に属する管理者は多くの秘密を復元する権限のあるグループ(アクセス集合)に属することになる。これまでの研究では、階層構造になっている組織において、上位の階層に属する管理者の管理する分散情報を削減し情報比を改善可能な方式を提案している。これまでの提案手法は、秘密を復元する権限のあるグループに制約のない一般アクセス構造を実現する手法であるが、今後は、一般アクセス構造を実現できなくても階層構造の組織が多数存在する実社会においてニーズの高いアクセス構造を効率よく実現可能な手法も検討する。 さらに、秘密分散法には、上述した情報比に関する課題だけではなく、秘密情報の分散および復元処理の演算量という課題もある。(k, n)しきい値法のアクセス構造の場合に秘密情報の分散・復元処理を高速にできる手法は提案されているが、これまでの研究では、管理者数が4人以下のすべてのアクセス構造の中で(k, n)しきい値法で実現できないアクセス構造のすべてに対して排他的論理和演算のみで高速に秘密情報の分散および復元が可能な秘密分散法を提案している。今後は、これまでの提案手法を拡張し、情報比に制約がある場合でも高速な分散・復元処理を実現可能な方式を検討すると共に、その効率を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国内出張が次年度にずれ込んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
一般に、任意のアクセス構造を対象とした方式とある特別なアクセスでのみ非常に効率のよい方式は異なる。したがって、本研究では、一般に任意のアクセス構造を対象としたものだけではなく、実社会で利用される可能性が高い特定のアクセス構造に対して効率のよい方式の両方を扱う。このためには、方式の検討だけではなく、その情報比を実際に評価する必要があり、研究協力者(大学院生)による計算機実装・評価が引き続き不可欠である。 また、研究成果のPRや有効性のディスカッションを行うために、国内・国外で開催される学会への参加が必要となる。さらに、研究成果を論文誌で発表するための論文別刷代や最終年度に研究成果を製本してまとめる印刷費が必要となる。
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