研究課題/領域番号 |
15K00193
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
尾花 賢 法政大学, 情報科学部, 教授 (70633600)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 秘匿演算プロトコル / 不正防止可能秘密分散 / 秘匿生体認証 / マルチパーティ計算 |
研究実績の概要 |
情報を暗号化したまま処理を行う秘匿演算方式に関しては,2項目間のクロス集計を実現した.従来,M個の要素とN個の要素の要素間のクロス集計を暗号化したまま行う場合,暗号文がMNに比例するサイズとなってしまい効率が悪かったが,本研究で提案した方式は,情報を特別な多項式に埋め込むことにより,暗号文のサイズをMNの平方根に比例するサイズまで削減することに成功している. テンプレート保護型の生体認証に関しては,生体情報の照合に適した生体情報の符号化法について検討を行い,誤り訂正符号に基づく方式1種類と,準同型性を有する公開鍵暗号を用いた方式を2種類提案した.従来,公開鍵暗号を用いたテンプレート保護型生体認証方式は,認証時に利用した生体情報と,登録した生体情報との間の距離が漏れるという問題を有していたが,公開鍵暗号に基づく2種類の方式は,認証時に利用した生体情報と登録した生体情報が同じ人物から取得されたと推定されるか否かしか漏らさない利点を有しており,距離を漏らす従来方式に対して有効であったヒル・クライミング攻撃と呼ばれる攻撃に耐性を持たせることに成功している. 秘密分散をベースにしたマルチパーティ計算に関しては,任意の線形秘密分散法に対して適用可能な,不正を検知可能な準最適秘密分散法の提案を行った.従来の準最適な方式は,秘密がランダムなビット列である場合に安全でないことが問題となっていたが,本研究で提案した方式は,秘密が(ランダムなビット列を含む)どのような体の要素であっても安全性を証明可能であり,さらに,各ユーザが保持する情報のサイズも理論的下界と1ビットしか差がない準最適な方式となっている.また,ユーザ間のインタラクションが不要なマルチパーティ計算に関しても検討を行い,通信量の理論的下界を導出するとともに,従来方式と比較して通信量が10の20乗分の1となる効率的な方式の提案を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報を暗号化したまま処理を行う秘匿演算方式に関しては,当初の目標通り,従来よりも効率の良い(暗号文のサイズを従来方式の平方根のサイズまで削減した)2項目間のクロス集計を実現しており,順調に推移していると考えている.また,今回提案した方式は,より複雑な集計を行う際の一般的なアイデアを示唆していると考えられる点からも,今回の結果は重要であると考えている. テンプレート保護型の生体認証に関しては,初年度は誤り訂正符号をベースにした方式の検討を行い,公開鍵暗号を利用した方式は二年目以降に行う計画であったが,今年度に公開鍵暗号を用いたテンプレート保護型の生体認証方式の提案を行うことができ,計画よりもやや早く研究が進捗していると考えている.また,提案方式は従来方式に対して有効であったヒル・クライミング攻撃と呼ばれる攻撃に対して耐性を持たせることに成功しており,理論的な意義も大きいと考えている. 秘密分散をベースにしたマルチパーティ計算に関しては,当初の予定どおり,任意の線形秘密分散法に対して適用できる,不正を検知可能な準最適秘密分散法の提案を行った.ランダムなビット列に対して安全な不正検知可能な秘密分散を構成することは,近年ホットな研究トピックであったが,(特定のパラメータではあるが)準最適な方式が構成可能であることを示した本研究の成果は非常に大きいと考えている.また,マルチパーティ計算に関しては,新しい研究分野である,ユーザ間のインタラクションが不要なマルチパーティ計算に関しても検討を行い,従来方式と比べて圧倒的に効率的な方式の構成に成功するなど,興味深い成果を得ることができた.この分野に関しても引き続き検討を行っていきたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
秘匿演算方式に関しては,今年度提案した 2 項目間のクロス集計よりも複雑な処理の秘匿演算方式を検討する.より具体的には,3 項目以上の間の関係を暗号化したまま解析可能な秘匿演算方式の検討を行う予定である.検討に際しては,完全準同型性暗号ほ どの汎用性は有しないが,定数回の乗算とその乗算結果の加算を行える暗号方式である Somewhat Homomorphic Encryption (Gentry, STOC 2009)と呼ばれる暗号方式の利用を想定している. テンプレート保護型 の生体認証に関しては,初年度に開発した符号化方式に基づく方式をベースに,より複雑な生体情報照合方式に基づいた具体的なプロトコルの検討を行う予定である.プロトコルの検討に際しては,より複雑かつ精度の高いテンプレート保護型生体認証に向けて,現状利用されている(テンプレートを保護しない)生体認証方式の調査を行い,それらの方式をテンプレート保護型の方式に適用可能か否かの検討を行っていく予定である. 一般不正者構造に対して安全な秘密分散に基づくマルチパーティ計算に関しては,今年度提案した不正を検知可能な秘密分散法をベースにし,効率的な通信量で不正者を特定・検出することが可能なマルチ パーティ計算を提案していく予定である.また,今年度検討を行ったユーザ間のインタラクションが不要なマルチパーティ計算に関しても,従来よりもさらに効率の良い方式の提案を行っていく予定である.
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