研究課題/領域番号 |
15K00204
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 美里 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (50444493)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 比較認知発達 / チンパンジー / 大型類人猿 |
研究実績の概要 |
物の操作を指標としたヒトと大型類人猿4種の比較認知発達研究を継続して実施した。飼育下の大型類人猿では、道具使用の前駆的行動である定位操作がすべての種で見られた。ただし、チンパンジーでは「入れる」という定位操作がヒトと同じく1歳前から観察され、他の大型類人猿よりも定位操作の発達がはやいことがわかった。これは野生下でチンパンジーの道具使用がもっとも多様で高頻度に観察されることに関連していると考えられる。新たな研究の展開として「半対面」場面を構築し、ボックスパネルを介して物の操作課題を実施して、老齢個体を含むより多くの飼育下チンパンジーを対象に研究を開始した。また、認知発達の基盤となる母子関係について、飼育下と野生のチンパンジーの認知課題・行動観察から得られた知見、およびヒトとの比較について英語論文として印刷公表された。さらに、母子間の愛着形成にもとづく認知発達について、和文での成果発表もおこなった。また、マレー半島のブキッメラ・オランウータン島財団(OUI)で国際共同研究としておこなっているオランウータンの行動学的・獣医学的な研究について、Primates誌に成果発表をおこなった。OUIでは、2010年から京都大学霊長類研究所と共同で、域外保全活動として環境エンリッチメントと母親による育児を推進している。2011年には、3個体のオランウータンを近くのBJ島に放した。行動観察の結果、BJ島では移動の割合が高くなり、樹上ですごす割合も増えた。自然に近い環境下でくらすことで、野生オランウータンに近い行動が出現することがわかった。霊長類研究所にくらす高齢チンパンジーの脳死の事例についても、第一著者として和文での報告をおこなった。また、これまでおこなってきたチンパンジーの認知発達研究の成果などについて、一般向けの講演として発表するアウトリーチ活動を犬山、東京、岡山にて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆頭著者の英語論文が2編、和文の招待論文1編が年度内に刊行された。筆頭著者となった査読がない執筆も7編あった。国際学会等での発表も筆頭のものが10件あった。野外調査の実施は困難だったが、8月に第2回アフリカ霊長類学コンソーシアムのシンポジウムで成果発表をおこなうとともに、ギニアの野生チンパンジー調査の現地関係者と研究打ち合わせをおこなった。研究全体の進捗状況としては、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
投稿準備中の英語論文が1編あり、平成30年度中の刊行をめざす。その他の執筆や学会等での成果発表も継続しておこなう。また、新たな「半対面」場面について、ボックスパネルを介して物の操作課題を改良して実施し、老齢個体を含むより多くのチンパンジーを対象とした研究を推進する。ヒト幼児の道具使用行動などとの比較だけでなく、生涯発達・老化にも視野を広げて研究を遂行する。なかでも、円形のカップを階層的に組み合わせる入れ子のカップ課題について、文法モデルを応用した新たな分析方法を開発するとともに、複数の解を設定した新たな課題について、チンパンジーを対象に実施して、行為の文法の視点からの解析を発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「半対面」場面で使用するボックスパネルが破損し、新たな改良版のパネルの設計中であり、平成30年度に設計にもとづいて作製をおこなう。平成30年度には、ケニア・ナイロビでの国際霊長類学会への参加・成果発表を予定しており、旅費としての支出が見込まれている。
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