同じ対象をただ繰り返し見るだけで,その対象は後に好意的に評価されるようになる(単純接触効果)。本研究の目的は,この現象を広告等に応用可能とするための基礎的知見を提供することであった。昨年度までに,モデルと商品から構成される広告画像を繰り返し参加者に呈示した場合,単純接触効果は広告全体またはモデル部分の画像に対しては生じるものの,商品部分の画像には生じないことが確認されていた。本年度は,こうした非対称性が生じる原因を検討するため,二つの実験を行った。刺激として,水平方向中心から女性モデル部分と商品部分に2分割可能な広告画像を16枚用意した。実験は接触と好意度評定の2段階から構成された。接触段階において,参加者は8枚の広告画像全体をランダムな順序で8回反復呈示された。参加者の課題はこれらの刺激をただ観察することであった。ただし,昨年度の実験とは異なり,参加者は商品部分に注意を向けて画像を観察するように強く求められた。好意度評定段階では,商品部分のみの画像(実験1)または,女性モデル部分のみの画像(実験2)16枚を呈示し,参加者に好ましさを評定するよう求めた。この段階で呈示された刺激は,半数が接触段階で呈示された画像の一部,半数はこの段階で初めて呈示される画像であった。実験の結果,いずれの実験においても単純接触効果の生起が確認された。このことは,特別な教示のない自然な観察自体において商品部分の画像に単純接触効果が生じない(昨年度実験3)ことの原因は,観察者の注意がモデル画像に補足されるためであること,また,モデル画像に対する単純接触効果は意図的な注意の配分の影響を受けにくいこと,を示している。
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