研究課題/領域番号 |
15K00213
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
田中 吉史 金沢工業大学, 情報フロンティア学部, 教授 (90285073)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 創造的思考 / 芸術 / 絵画鑑賞 / 制約緩和 |
研究実績の概要 |
本研究は、絵画鑑賞初心者が持つ写実性制約を緩和し、より創造的な絵画鑑賞を支援するための手法を提案することを目的とする。本年度は実験1として、絵画鑑賞における写実性制約緩和に対する解説文の効果を検討した。また、絵画鑑賞時の思考過程についてより自然な状況でデータを得るため、鑑賞中の発話データを収集した。なお、当初の実験計画を再検討し、より少人数の参加者で効率的に可能な実験デザインに変更した。 実験は「事前鑑賞フェーズ」「解説文フェーズ」「本鑑賞フェーズ」の3つからなり、各フェーズで2点の絵画が5分ずつ呈示された。「鑑賞文フェーズ」で呈示される解説文の種類によって3条件(解説文なし条件、対象物解説文条件、構図解説文条件)、また「事前鑑賞フェーズ」「本鑑賞フェーズ」の絵画をカウンターバランスした2条件(共に参加者間条件)を設定した。実験には美術初心者の一般大学生が2人一組で実験に参加し、各絵画を見て気づいたことを自由に発話した。実験中の行動と発話を録音・録画してテキスト化し、発話に関してテキストマイニングによる定量的分析を行った。 これまでの分析から、以下のような結果が得られている。「事前鑑賞フェーズ」「本鑑賞フェーズ」における具象画(ゴッホ「夜のカフェテラス」、シスレー「夏の風景」)に対する発話の分析から、鑑賞の初期は題名に示された事物の特定に集中することがわかった。ゴッホにおいて、絵画の形式的側面に関する発話は、構図解説文条件では他の条件よりも早く出現し、また絵画全体の奥行きや構図に言及する傾向が見られた。ゴッホとシスレーに対する発話との比較から、解説文の効果の生じやすさが絵画の性質によって異なる可能性が示唆された。また、抽象画に対する発話では、対象物解説文条件では「分からない」といった発話が多く、対象物解説文は全体に写実性制約をより強める可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
友人同士2人1組で自由に発話させるという方法を取った結果、当初の想定以上に多くの言語データが得られたが、そのテキスト化のために予想以上の時間がかかった。また、発話には口語的な表現が予想以上に多く含まれ、分析にかけるための下処理に想定外の時間と労力を必要とした。さらに、実験室を指導学生と共有しており、卒業研究のため実験室が使用できない期間があった。これらの理由で、実験の実施と発話データの分析の一部が次年度に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に収集したデータから得られた新たな知見の安定性を確保するために、さらにデータを追加して実験1の実施を早期に完了する。データのコーディング手順や分析手法はある程度確立できているので、書き起こしの一部を外部業者に委託し、また学生アルバイトの人数を増やして効率的に遂行する。 当初の計画では3年目に行う予定であった美術展における鑑賞プロセスのフィールド実験を、協力先美術団体の都合により、今年度中に実施する。そのために必要なICレコーダなどの機器を購入し、また学生アルバイトを雇用する。 また、これらの実験と、3年目に実施を計画している実験の計画に際して、専門家からの助言を得るための謝金を支出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主として、実験参加者数の謝礼の支出が少なかったことによる。その理由の第1は、当初の実験計画を再検討し、より数ない参加者数で実施可能な実験計画に変更を図ったことである。第2に、実験実施と平行して行ったデータ分析のために多くの時間と労力を要したため、実験実施の一部が年度内に終了しなかった。これらのことから、謝金として支出予定だった額の一部が次年度使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度からの実験を引き続き実施し、被験者の謝礼品の購入を行う。また、今年度は美術展でのフィールド実験を実施するので、そのためのICレコーダなどの機器類を購入する。効率的なデータ分析を進めるため、データの書き起こしを一部専門の外部業者に発注する。さらに、美術専門家からの助言を得るための謝金、英文校閲、昨年度までの実験の成果発表のための旅費として支出する。
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