今年度、階層図を刺激図形として用いた視覚認知実験により図的表現における視覚的注意の広がりに関する検討をおこなった。図的表現に対して、目的に応じてどこを読むかを判断したり、視覚的に目立つ部分に対して注意を向けたりすることで柔軟に処理を行うためには、図的表現の幾何学的および意味的特性によって注意を同時に向けることができる範囲等にどのような制約があるのかを明らかにする必要がある。実験は、刺激図形内のある空間的位置に対して、明るさを変えることで注意を誘導した結果、認知処理の促進がどの範囲でみられるかを調べるために用いられる空間手がかり法の修正版を用いておこなわれた。明るさを変化させた構成要素を手がかりとして標的となった構成要素との関係を、図全体の中での階層的関係(手がかりに対して標的が提示された水準が、上位、同じ、下位のいずれか)と手がかりと標的が階層関係を表す局所的なまとまりを構成しているかどうかの2つの変数を操作することで検討をおこなった。その結果、図的表現のカテゴリーに依存した慣習的知識、図的表現を構成する要素同士の幾何学的特性(共線性)および環境的な参照枠が、階層図に対する注意の広がり方に影響していることが明らかにされた。 こうした階層図に対する視覚的注意の広がりに関する特性は、あらゆる図的表現に当てはまるものではなく、階層図に特化した慣習的知識を反映している。こうした慣習的知識を用いることにより、図的表現に対する理解がより効率的におこなわれると考えられる。これまで明らかにしてきたfMRI実験による知見と合わせて考えると、適切な慣習的知識を活性化させるために、類似した大域的構造をもつ図的表現の知識間で生じる競合を解消するために抑制的制御がはたらいている可能性がある。こうした知見は、図的表現のデザインだけでなく、図的表現の読解における効果的な教育方法に対しても応用可能である。
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