研究課題/領域番号 |
15K00226
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岡田 佳子 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (50231212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バクテリオロドプシン / 画像フィルター / 視物質 / Gaborフィルター / 欠陥検出 |
研究実績の概要 |
視覚系ニューロンが反応する限られた範囲は受容野と呼ばれ,光刺激に対して極性の異なる電位応答を示す興奮領域と抑制領域で構成されている.本研究の目的は,生体材料をそのまま利用し,受容野の構造だけを模倣した空間フィルターを作製してアナログ画像処理に適用することである.光合成タンパク質バクテリオロドプシンセルが示す正負の極性反転微分応答を受容野の興奮と抑制応答に読み替えて,対向する透明電極に選択的にパターニングし,マスクパターンで覆うという非常に簡単な方法で空間フィルターを実現した.この一画素演算素子を用いて,動物の電気生理学応答との比較やリアルタイム画像特徴検出を行った. 初年度は,一次視覚野単純型細胞の受容野構造を模倣したGaborフィルター素子を作製し,アナログ画像処理に適用した.異なる大きさの長方形パターンを互い違いに被膜した ITO 電極を,向い合わせに配置した光セルを作製した.セル受光部上に,透明シートにプリンターでGaborパターンを印刷したマスクを装着し,入力画像を走査する.光矩形格子の幅や間隔,方向を変えた入力画像を走査したところ,単純型細胞の応答と同様に,ある特定の空間周波数と方向に強い光電流出力が見られた.さらに電子部品の欠陥検出を想定して,線幅や間隔,方向の違い,小さな穴などの欠陥をもつ入力画像を走査したところ,欠陥のある部分のみ出力が大きく減少した.画像を走査するだけで,光電流出力プロファイルからリアルタイムで欠陥検出できることがわかった.電源や外部演算回路が不要のため,デジタル欠陥検出の前処理過程に適用すれば,演算量と消費電力の大幅な低減が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一次視覚野単純型細胞の受容野構造を模倣したGaborフィルター素子による欠陥検出の提案は,平成27年8月に,「光フィルタ素子,これを用いた欠陥検出システム,及び光センサ」の名称で特許出願受理(特願2015-165823)された.さらに,平成27年10月13日,"Protein-based optical filters for image processing" が米国国際光工学会SPIE Newsroom に掲載された(http://spie.org/x115663.xml).また,平成28年4月15日,日刊工業新聞に「画像フィルター:高度好塩菌で開発」が取り上げられた.フランスと中国で開催された2件の国際会議において招待講演を行った.学術論文も投稿,審査中である.
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今後の研究の推進方策 |
初年度作製した,一次視覚野単純型細胞の受容野構造を模倣したGaborフィルター素子は,cos型のフィルターである,今後は同様の手法を用いて,sin型フィルターの作製およびそれを用いた欠陥検出に取り組む.cos型,sin型の組み合わせで,より高度な画像処理ができると予想している.さらに,網膜神経節細胞の受容野構造を模倣したフィルター素子を作製する.これは中心周辺拮抗型同心円状で,DOG (Difference Of Gaussian) 関数で表される.円形なので成膜に困難が予想されるが,新規な成膜方法やパターニング方法の発案を課題とし,ON中心DOGフィルター素子を作製する. 受容野形状から任意の時空間刺激パターンに対するニューロンの時間応答を定量的に予測できることから,本研究で提案する生体を用いた視覚ハードウェアは画像工学分野だけでなく,神経生理学分野にも何らかの貢献ができるよう研究を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年3月の応用物理学会における複数学生発表のために,参加費,旅費等の予算を残しておいたが,発表した学生が一人だけだったため,未発表学生分の参加費,旅費等に未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
大きな額ではないので,適正に使用する.
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