研究課題/領域番号 |
15K00228
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
横田 康成 岐阜大学, 工学部, 教授 (00262957)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 害獣検出 / 移動物体検出 / 確率的追従背景差分法 / 動きの時空間的特徴 / 動きの時空間的数理モデル |
研究実績の概要 |
近年,衛生環境維持のため,飲食店,食品工場などに住み着くネズミなどの害獣の駆除に対するニーズが高まっている.駆除を効率的に行い,その効果を確認するため,現場に赤外線監視カメラを設置して映像を数日にわたり記録し,その映像中に害獣が出現するかどうか,出現する場合,いつ,どこに出現するかを検査することがある.これまで,こうした検査は,駆除を請け負う企業の従業員が行う苦痛な作業となっており,計算機援用により負担軽減が求められている. そこで,本研究では,赤外線監視カメラ映像を画像処理することにより,ネズミなどの害獣の自動検出を行う手法を開発した.その基本的考え方は,ネズミなどの移動物体の映っていない映像(背景画像)を求め,それから変化しているものを背景画像に映っていない新たに出現した移動物体と判断するものである.こうした手段を採用する理由は,赤外線監視カメラに映るネズミは,小さくて暗く,一目でネズミと分かる形状をしているわけではないため,ある一枚の静止画像を見て,ネズミが映っているか否か,どこにいるかを見つけ出すことは,熟練者においても困難である.しかし,この静止画像を背景画像と交互に表示すると,誰でも一瞬にしてネズミを発見することが可能になる.これは,背景画像に映っていないものを検出していることに他ならない. ただし,こうした手法では,ネズミなどの対象とする害獣以外の移動物体,例えば,虫,ホコリ,ヒト,機械の振動なども検出されてしまうため,誤検出率が非常に大きくなる問題がある.さて,人がネズミの検出を行う際,少なからずネズミらしい動きという知識を利用している.そこで,本研究においても,人がもつネズミらしい動きの知識をモデル化し,これを利用することによりその他の移動物体と区別する方法を提案した.これにより,ネズミの検出精度を大幅に実用化水準に至るまで向上させることが可能になった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに共同研究先である企業の協力により約240日分の赤外線監視カメラ映像を記録した.これらの動画像に含まれるネズミの時刻と位置を特定するために,確率的追従背景差分法を用いたネズミ検出法を開発した.確率的追従背景差分法とは,ある一つの画素の輝度変化を,雑音などの確率的変動,照明などによる区分的に滑らかな変化,対象とするネズミの出現による短時間の変化が加わったものとしてモデル化し,その変動の時間的性質の違いに着目して分離することにより,ネズミの出現による輝度変化のみを検出する手法である. 以上の方法で100%の検出精度を得ることはできず,ネズミ以外にも,人,照明,機械等の動作物,埃,虫などが誤検出されている.そこで,上記の検出後,サイズ,形状の空間的性質,見かけの動きの速度という時空間的性質を利用することにより,ネズミとその他の対象を区別する手法を開発した.これにより,共同研究先である企業が実用化する目的において必要十分な検出精度を得ることが可能になった.そこで,現在,開発した手法の特許出願の準備を進め,本研究で開発したソフトウエアの著作物としての権利譲渡,実用化のためのシステム開発を行っている. 開発した手法では時空間的性質として単に動きの速度を利用しているが,提案法を様々な対象に応用し,対象をより限定的に検出するためには,様々な対象のより複雑な動きをモデル化することが不可欠である.そこで,画像の水平,垂直軸をそれぞれ実軸,虚軸とみなした複素平面と考え,対象の動きを複素自己回帰モデルで記述し,ネズミと,それ以外の人,照明,機械等の動作物,埃,虫を区別する最適な特徴量(の組)の特定を試みている.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度,開発した手法では時空間的性質として単に動きの速度を利用しているが,提案法を様々な対象に応用し,対象をより限定的に検出するためには,様々な対象のより複雑な動きをモデル化することが不可欠である.そこで,画像の水平,垂直軸をそれぞれ実軸,虚軸とみなした複素平面と考え,対象の動きを複素自己回帰モデルで記述し,ネズミと,それ以外の人,照明,機械等の動作物,埃,虫を区別する最適な特徴量(の組)を特定する.そのうえで,確率的追従背景差分法と組み合わせた検出法を考案する.具体的な手法として以下を想定している. まず,対象の存在していない動画像は,雑音などにより変動しているため,その変動を確率過程(場)として記述する.記述された背景の変動に対し,一定時間間隔(例えば,2秒)ごとに,事前に定めた検出閾(余裕を持って安全に定めておく)に対し有意に外れた変動があるかどうかを調べる.変動があった場合,ただちに,その要因がモデル化した検出対象の時空間的特徴に合致するか否かを判定する.合致した場合,モデルが予想する次の時刻で出現するだろう時空間的座標における検出の検出閾を下げる.また,対象の時空間的特徴に合致しなかった場合,検出閾を上げる.これは,ヒトが動画像中の特定の対象を見つける場合,怪しいと思ったらその対象を引き続き注意して追うようにし,検出対象物以外だと判断したら,注意力を下げるようにするといったヒトの知覚・認知の原理に合致した合理的な検出原理である. すでに記録してある約240日分の監視カメラ映像に対し,開発した手法の検出性能評価を行う.その結果に基づき,必要な改良,修正を行う.性能評価,改良を進めることと並行して,新たな監視カメラ映像の収集を行い,これらについても開発した手法の評価を行ってゆく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった計算用ワークステーションをパーソナルコンピュータで置き換えたことと打ち合わせ旅費を一切使用しなかったことにより,次年度使用額が生じた. ワークステーションをパーソナルコンピュータで置き換えた理由は,共同研究を行っている企業から,今年度は実用化を重視して欲しいとの要望を受け,実用化においては,提案法がワークステーションではなく,パーソナルコンピュータで動作することが必要不可欠であることから,パーソナルコンピュータに置き換え,処理速度,使用メモリなどを評価する必要が生じたためである.一方,打ち合わせ旅費を使用しなかった理由は,打ち合わせはすべて研究代表者の所属大学で行われたためである.
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度,開発した手法では時空間的性質として単に動きの速度を利用しているが,次年度予定している提案法を様々な対象に応用し,対象をより限定的に検出するためには,様々な対象のより複雑な動きをモデル化することが不可欠である.具体的には,例えばネズミの場合,一直線に動いては立ち止まり,また動き出すなどの特徴的な動きを表現できる数理モデルが必要になる.また,様々な害獣に対してもこの数理モデルで包括的に動きの時空間的特徴を表現するためには,当初の予定以上に複雑な数理モデルが必要であり,計算コストも増大することが見込まれている.そこで,次年度使用額は,より計算能力の高いワークステーションの購入費用に補てんする予定である.
|