研究課題/領域番号 |
15K00230
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
工藤 博章 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70283421)
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研究分担者 |
大西 昇 名古屋大学, 情報科学研究科, 研究員 (70185338)
山田 光穗 東海大学, 情報通信学部, 教授 (60366086)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オクルージョン / 知覚 / 奥行き知覚 / 眼球運動 / 調節 / 生体信号 / 同時計測 / 立体映像 |
研究実績の概要 |
本研究では,オクルージョン知覚時の脳内の処理過程を,新たな実験パラダイムと生体信号の測定により解明し,3D,2D画像における奥行き知覚の向上,脳内のオクルージョン処理を積極的に生かした3次元画像の再構成に生かすことを目的としている. 本年度は,前年度に開発を実施した,生体信号の同時計測および実物体及び映像提示装置と生体信号に基づいた制御を行うための機器を用いて心理実験を実施した.従来得られているオクルージョンに関する知見の確認のため,実物体を用いた実験を行った.また,ステレオ映像を用いて,オクルージョンを知覚させる対象のパターンの明るさについて統制した条件下での眼球運動の計測を行う実験を行った. 生体信号の同時計測では,両眼の眼球運動と単眼についての調節(水晶体の屈折度)の計測を行った.これまでに研究代表者・分担者らによる両眼眼球運動を計測した実験の知見として,オクルージョン領域の注視の際には,物体にテクスチャがある場合とない場合で,平均的な注視位置が異なることを報告している.ここでは,そのような注視位置の異なりが生じる要因について,個別の目の焦点距離に関する処理によるものか,あるいは輻輳角との関連によるものかについて,屈折度の観点から分析するために,実験を行った. また,従来の実物体を用いた実験条件では,テクスチャの有無の条件で,輝度差が認められた.ここでは,等明度(知覚される明るさが同じ)パターンからなるテクスチャを用いたCGによるステレオ画像を用いて,両眼の眼球運動を計測する実験を行った. 今後は,実験条件を変更して,多くの計測を進めていく.また,映像観察時の注視位置に応じて映像を変化させる方法について,検討を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にしたがって,眼球運動と調節(水晶体の屈折度)の同時測定を行う実験を実施した. 実物体を用いた心理実験を行い,同時計測を行う上での計測手順,必要なデータ処理を示し,対象にテクスチャがある時とない時の眼球運動と水晶体の屈折度の同時測定を行った例に関して,報告する発表を1件行った.同時計測を行う実験を進め,眼球運動の評価に対して輻輳角も含めて分析を行った結果について,報告する発表を1件行った.これらの発表において,個別の目の焦点距離に関わる処理系の働きの結果というよりも,輻輳角の変化に応じて水晶体の屈折度が変化しているものと示唆されるようなデータが得られた. CGによるステレオ映像による等明度テクスチャを用いた視覚刺激を用いた実験では,等明度(知覚される明るさが同じ)条件の測定例とその再現性,等明度条件で表示したテクスチャ刺激による眼球運動計測により,等明度テクスチャの提示条件においても,従来の異なる明度によるテクスチャ条件と同様に,輻輳角に変化が生じることを示唆するような結果を報告する発表を,1件行った. 学会の研究専門委員会からの提案により,オクルージョンに対する知覚処理についての解説論文を執筆し,本研究課題に関連した先行研究の紹介,屈折度測定と関係の深い焦点に着目して,注視位置に対応する対象までの視距離に応じて映像を変化させた時の眼球運動計測,近距離映像提示条件の際の眼球運動計測,屈折度の測定例などについて,紹介した.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね予定通りに計画が進んでおり,同時計測機器を用いて,実物体や映像提示による実験を進める.また,当初の計画にしたがった生体信号の計測に基づいた実物体の提示条件,あるいは,映像の制御について検討を進める.注視位置にしたがった映像の制御については,注視位置に応じた焦点映像の提示という実験条件を実現しており,手順に関して経験を活かして行う.また,2次元映像を利用して3次元映像を変換するような映像処理手法において,オクルージョンの領域をどのように表現するのが良いのかを検討する.2眼ステレオにおいては,それぞれの光軸は固定であり,視覚系の輻輳で生じるようなオクルージョン領域に変化は生じない.このような映像に対しても,奥行き知覚を促進させるような表現法などの検討も考えらえる. 一方,オクルージョンに関する知覚処理をモデル化することも検討する.眼球運動と屈折度の同時計測を基に,前景と背景のいずれを注視対象としているのかなどの注視戦略のモデル化を行う.眼球運動として前景・背景の間で注視位置の移動が繰り返される.あるいは前景に分布が偏る.あるいは背景に分布するなどの特徴と,屈折度の変化をモデル化する.これまでの計測によると,輻輳角と屈折度の関係性が示唆されており,この点も考慮する.また,提示刺激が等明度にある条件での眼球運動計測についても,異なる明度の条件とでは,視覚処理系の情報伝達経路の違いがありえることからも興味深く,この点についても考慮する.また,屈折度の同時計測なども考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究が順調に進捗し予算に残額が生じた.最終年度における研究のまとめと学会発表に充てるため,最終年度の予算に加えて,この予算を使用することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度であり,国際会議での発表における英文の校正費用,国際会議の参加費,別刷り費用に充てる予定である.
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