1 透写・自然条件での筆跡採取:透写条件(手本を敷き写して文字を書く条件)及び自然条件(通常の筆記条件)で筆跡を採取した.ボールペンタイプのペンタブレットを用い,紙面に筆跡を採取すると同時に,ペン先の位置,筆圧の時系列情報を取得した.書字時間は,透写条件では自然条件と比べて長かった.ペン先の速さは,自然条件では一画の中での速度変化が滑らかであるのに対し,透写条件では,筆速の小刻みな上がり下がりが認められ,滑らかではなかった.筆圧は,透写条件では自然条件と比べて始筆部から高く,一画中での変動が乏しかった. 2 筆跡画線の観察装置の開発:筆跡画線の質感にまつわる情報を取得するため,同軸落射照明によって筆跡画線の底部に光沢を発生させ,その様子を複眼カメラで多方向から同時観察する装置を開発した.得られた複眼画像では,観察方向の変化に応じて光沢の位置や形状が変化し,人間が質感を把握するときにも重視される偏角反射特性が得られた.さらに9個眼像の位置を合わせて最大値を取り,偏光イメージングで直交/平行ニコル画像の比(偏光比画像)を求めたところ,筆圧と力が働いた時間の積(力積)が大きいほど画素値が高くなる傾向がみられた. 3 透写筆跡の検知指標の検討: 透写筆跡を観察した際に,専門家が指摘する不自然な点を列挙したところ,始筆部や終筆部に筆記具が停滞したと思われる痕跡(例:高いインクの濃度,インクの滞留)がみられること,湾曲した画線の円滑さが低くなることなどが指摘された.最終年度は,以上をもとに透写筆跡の検知指標を検討した.その結果,筆跡画線の濃淡情報と,筆跡画線の各点の偏光比画像から推定される力積とを総合して評価することは,透写筆跡の検知に有効であると考えられた.
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