研究課題/領域番号 |
15K00263
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
竹本 浩典 千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40374102)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ビブラート / 音声生成 / 発声・発話器官 / 歌声 / MRI動画 / 鼻腔・副鼻腔 / 時間領域差分法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,引き続き鼻腔・副鼻腔の音響特性の解析に取り組んだ。この科研費の研究課題はビブラートの生成メカニズムに関する研究であるので,鼻腔・副鼻腔の音響特性の検討はビブラートと無関係に思える。しかし,実は鼻腔・副鼻腔の音響特性は,ビブラートの生成機構と重要な関係がある。平成27年度に行ったオペラ歌手へのインタビューで,ハミングではビブラートがかかりにくいという内観報告が得られた。これは鼻腔・副鼻腔の音響特性にビブラートを阻害する要因があることを示唆する。そのため,声帯から口唇へ至る経路の音響特性と,声帯から鼻孔に至る音響特性を比較検討することで,ビブラートの生成メカニズムの音響的な側面が明らかになるのではないかと考えている。 平成29年度に行った研究により,まだ例数は少ないものの,鼻腔・副鼻腔の音響特性に男女差があることを示唆する結果を得た。この研究では,男女2名ずつの鼻腔・副鼻腔の3次元形状をコーンビームCTで撮像したデータから抽出し,その音響特性を時間領域差分法によって計算した。その結果,男女とも第1共鳴は200 Hz程度と共通していたが,第2,第3共鳴は,女性では1.5~2.0 kHzの帯域に近接して現れ,男性では1.0 kHz付近と2.0 kHz付近に分離して現れた。そのため,女性の鼻腔・副鼻腔の伝達関数では,1.5~2.0 kHzの帯域が非常に強調されることが明らかになった。これは鼻声には男女差があることを示唆している。鼻腔・副鼻腔の音響特性は計測やシミュレーションが難しいため,先行研究も少なく,このような報告はないため,新しい知見であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの研究では,MRIを用いた観測によりビブラートで振動する発話器官の部位とその振動方向について予想以上にクリアなデータが得られたため,平成29年度に予定していたビブラートの生成に関わる筋肉の推定まで行うことができた。従って所期の結果は1年目でほぼ得ることができた。しかし,平成28年度に所属機関を変更したため,当初予定していた,上記の結果を補助的に検討するための,ビブラートによって振動している部位の変位などを位置センサで計測する実験は行うことができなくなった。その一方で,当初の予定にはなかったが,オペラ歌手のインタビューの結果に基づいて開始した鼻腔・副鼻腔の音響特性についての研究は大きく進展した。特に,鼻腔・副鼻腔の3次元における精密な音響解析により,その音響特性には性差がある可能性を示唆する重要な結果が得られた。例数を増やして上記の可能性を検討するために研究期間を1年間延長したが,全体としては予想以上の成果が上がっており,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
所属機関の変更により,当初予定していた,オペラ歌手のビブラートによって振動している部位に位置センサを設置し,センサの変位と音声を同時に記録して振動部位の変位と基本周波数の変化を検討する実験を行うことは困難になった。そこで,現在順調に進んでいる鼻腔・副鼻腔の音響特性とその性差についての研究をさらに進展させる。まず,被験者を最低でも1名ずつ増やし,これまでと同様の方法でコーンビームCTの画像から鼻腔・副鼻腔の3次元形状を抽出し,その伝達関数を計算する。これにより,女性では1.5~2.0 kHzの帯域が強調されることを確認する。さらに,副鼻腔を一つずつ閉塞して伝達関数を計算することにより,副鼻腔によるディップを特定する。また,入力インピーダンスも計算し,反射関数を用いた声帯振動モデルでビブラートのシミュレーションを行う。これによってなぜハミングでビブラートがかかりにくいのかを検討し,ビブラートがかかるために必要な声帯振動と声道共鳴との相互作用について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,研究成果を3件の国際学会等で代表者として発表したが,1件は学校費で負担,2件は招待講演で旅費の負担がなく,予定していた旅費が大幅に余ったため,次年度使用額が生じた。平成30年度では,例数を増やして鼻腔・副鼻腔の音響特性の検討を行うので,音場の可視化を行うためのソフトと計算機を購入する。
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