本研究では、ロック・ポップス等の軽音楽のインターネットライブ中継を対象とし、遠隔視聴者と演奏者の間での非言語コミュニケーションについての支援方法を探求した。音楽の生演奏の現場では、観客は手を振るなどの身振りで演奏者に対して反応しているが、インターネット中継で、遅延が存在する前提で同様のコミュニケーションを支援するための工夫を行い、遠隔視聴者と演奏者との間での一体感を提供すること、またそのための設計指針を示すことが目的である。 平成29年度は、前年度に実施した「ライブにおける一体感の本質を確認するために評価グリッド法を用いたインタビュー調査」の結果に基づき、遠隔でも支援可能なライブの価値として「一体感」と「非日常性」を重視すべきと考え、それらを実現する機能が設計指針になると仮定した。これに基づいて新たに仮想現実感と拡張現実感を導入したシステム KSA2を設計・実装し、評価した。このシステムでは、仮想空間中にライブハウスを構築し、遠隔視聴者はアバターとして参加する。また演奏者は拡張現実を用いて仮想ライブハウスにいる遠隔視聴者をアバターとして認識する。視聴者の動作は通信負荷を下げるため記号化して演奏者や他の視聴者に送信され、再現される。 このシステムを評価した結果、前年度までのアニメーションベースのシステムよりも価値の高い利用者体験が実現でき、設計指針についても一定のものを示せた。これらの成果について、査読付き国際会議発表1件(雑誌にも掲載)、国内学会発表7件(うち1件が情報処理学会全国大会学生奨励賞を受賞)を行った。一方、当初予定から方針を改めた新システムの設計開発・評価実験に時間と予算を要したため、研究開始時の計画で予定していたプロの音楽家による評価と、最終成果の学術雑誌論文への掲載は期間内に実現できなかった。最終成果論文のとりまとめは今後実施する。
|