本年度はバイオリンを対象にシステムが学習者に提示している補助情報から離脱する2つの新手法およびその手法を活用した学習支援システムを提案(1.および2.)した.また,システムが提示する補助情報からの離脱という概念を,既存練習からの離脱というメタなレベルへと昇華させた学習支援システムを提案(3.)した. 1. 正解・曖昧・虚偽の3種類の補助情報を,学習者の理解度に応じて提示する手法を構築した.本手法により,学習者はシステムが提示する正しい補助情報を見ながら漫然と練習するという練習方法から,システムの補助情報が正しいか考えながら練習するという練習方法の変容を観測した. 2. マルチモーダルな補助情報を,学習者の理解度に応じて提示する手法である.バイオリンでは,撥弦(擦弦)時に正しい音高が出ているか学習者は自身の耳で弁別しなければならない.一方,指板上にある指の位置や重心が少し変わるだけでも音高が変わってしまう.そこで,大まかな押弦位置を視覚的な補助情報で提示し,数ミリ単位の細かい押弦位置を聴覚的な補助情報で提示するというマルチモーダルな情報提示手法を提案した.従来手法の視覚的な補助情報に比べて,提案手法の方が効率的に学習できることを確認した. 3. 技能の習得には反復練習が重要である.例えば,イラストの模写では描画能力を高めるために幾何学的な形状やその組み合わせを反復的に描く基礎練習を行う.反復練習から離脱し,模写能力を効率的に高めるために編集操作に着目した練習方法を提案する.編集操作とは,文章や図を編集する操作のことである.編集操作はイラストの描画でも使われており,描画の目安となる補助線を引くことや,大まかに描画して後で消去することなどがある.本研究では,編集操作による模写能力の向上の第一段階として,消去指向型描画スタイルを提案し,その有用性について確認した.
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