研究課題/領域番号 |
15K00297
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高木 理 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (30388011)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 頻度 / 医療データベース / クリプキ意味論 / 線形時相論理 / t検定 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、時間の経過に伴う事象の変化を詳細に記述することが可能な形式的論理(以下、頻度論理)を構築し、その論理をベースとした医療データベース検索システムを開発することである。 初年度である平成27年度の主な目標は頻度論理を構築することである。そのためには、事象の頻度が増加、減少あるいは継続していることを表すためのオペレータの定義、頻度オペレータをベースとした論理式(以下、頻度命題)の整合的な定義、さらには、頻度命題に対する解釈の定義が必要である。そこで、統計学におけるt検定に注目し、事象の対象の集合族{Si}および時間の区間(つまり、期間)による列{Tj}に対して,期間Tjおよび対象集合 Siにおける、ある事象Pの発生数と、その後の期間TkおよびSiにおける Pの発生数をそれぞれ比較し、その差が有意でないことをt検定における帰無仮説とすることによって、事象発生数の増加・継続・減少を表現し、原子的な頻度命題とその解釈を定義した。さらに、上記の事象発生数の増加・継続・減少を表す頻度オペレータを再帰的に適用して得られる一般の頻度命題に対する意味論を構築するために、線形時相論理におけるクリプキ構造を拡張して、粒度の異なる期間の列による階層モデル(以下、期間階層モデル)を構築した。この期間階層モデルは、例えば、1分の長さを持った期間の列、1時間の長さを持った期間の列、...というように、長さの異なる期間列を重ねることによって構築されている。この期間階層モデルによって、例えば、「ある入院期間において、手術前の期間に比べて、手術後の期間の方が、1日当たりのナースコール数が増加する、という現象が、過去5年間において毎年増加している」というような、複雑な事象の頻度の変化を表すことが可能な命題と、その解釈を整合的に定義することが出来るようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の主目標である頻度論理の構築については、t検定の枠組みを利用することによって、プロトタイプとなる頻度論理を構築することが出来た。ただし、今回構築した頻度論理が十分な表現力を備えているかどうかや、医療データ分析の観点から見て実用性を十分に満たしているかどうか等の検証を行う必要がある。そこで、大学病院が所有する実際のナースコールの履歴データに注目し、頻度論理を用いてナースコールデータの分析を行うことによって、頻度論理の実用性を評価することの準備を進めているところである。 また、本研究の関連研究として、時系列解析に注目し、過程の定常性やエルゴード性が、頻度論理においてどのように定義され得るのか?等の研究も行っているところである。 また、最近では、ナースコールデータ等の医療データベース上のデータの分析だけでなく、ネットワーク機器に蓄積されるログデータの分析にも、頻度論理が役に立ち得ることに注目している。特に、無線デバイスとアクセスポイントとの間でやり取りされるデータに注目し、無線デバイスの位置の割り出しや、ネットワークセキュリティ上の問題発見に関係のある命題の形式化の研究を行っている。その研究の一環として、無線LAN上のパケットを受信および解析するためのソフトウェア(Savvius社製 Omnipeek professional)を購入し、そのソフトウェアを用いてパケットの分析を行っているところである。 以上により、研究の進捗状況は、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成28年度においては、これまでに構築した頻度論理をベースとしたデータ検索のためのクエリ言語と、このクエリ言語に基づく医療データベース上のデータ検索システムの開発を行う。この検索システムによって、頻度命題を満たす時系列データの検索や抽出が可能になる。また、この検索システムを用いて、国立大学病院における実際のサービスコールの履歴データの分析を行う予定である。 上記の検索システムを用いて、ネットワーク機器に蓄積されるログデータの分析も行う。最初の目標として、無線デバイスを用いたネットワーク環境において、セキュリティ上の問題発見に関係のある命題を頻度論理で形式化し、セキュリティ上問題のあるログデータの有無を検証する。 また、時系列解析および統計的モデル検査の理論と本研究との関係性についても研究を行う。特に、お互いの研究のメリットを生かし、従来の時系列解析および統計的モデル検査理論における研究成果を頻度論理における研究成果と組み合わせて、理論的な整合性と実用性を兼ね備えた、データ分析のためのフレームワークの開発を目指す。 平成29年度においては、頻度論理ベースのクエリ言語に関する計算量や精度の研究を行うことを予定している。さらに、頻度命題としての意味を保ちつつ、データ検索の計算量を下げるための、様相論理における抽象化技法に相当する技術の研究も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の国内旅費が予想よりも少額で賄えたため、また、初年度は研究用のコンピュータ(ハードウェア)を購入しなくても入手することが出来たため、予算を全て使わなくても研究を遂行することが出来た。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金は予定通り、主に頻度論理をベースとした検索システムの開発環境の構築と、国内外における研究発表のために使用する予定である。また、平成27年度に使い切れなかった助成金(約115千円)については、新たに行われることになった院内ネットワークシステムのログデータの収集や分析のために使用することを予定している。
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