研究課題/領域番号 |
15K00297
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
高木 理 群馬大学, 社会情報学部, 准教授 (30388011)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 頻度 / 論理 / 医療データベース / ナースコール / データ分析 / 院内ネットワーク / 時系列分析 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、時間の経過に伴う事象の変化を詳細に記述することが可能な形式的論理体系(以下、頻度論理)を構築し、その論理体系をベースとしたデータベース検索システムを開発することである。平成28年度の主な目標は、初年度において構築した頻度論理をベースにしたデータベース検索システムを開発することであるが、このシステム開発に関する取り組みについては、「現在までの進捗状況」の欄にて改めて説明する。 一方、このシステムを開発するための準備として、平成28年度の前半においては、病院内のナースコールに関する履歴データから、入院患者の入院プロセスに基づいてナースコール数の時系列的な変化を分析するためのシステムに関する研究を行った。さらに、この研究成果を国際会議BioMedPub 2016において発表した。この研究内容は当会議において高く評価され、BioMedPub 2016におけるベストペーパーアワードを受賞した。また、入院患者の入院プロセスに基づくナースコール数の時系列的な変化の分析システムに関しては、医療情報学会におけるランチョンセミナーでの発表など、国内においても高い評価が得られている。 また、時経列的な変化を分析することの応用として、ネットワーク上のパケットや、無線デバイスと無線LANルータ(アクセスポイント)との間のビーコンに関するデータの変化にも注目しており、これらのデータを分析して、ネットワークのセキュリティの強化や無線デバイス(のユーザ)の位置情報の推定に応用する研究も行った。これらの研究の初期段階の取り組みとして、企業との共同研究を通じて、病院内のナースコールシステム上のパケット分析を行ったり、ビーコン情報を効率的に収集するためのネットワークシステムの再整備を行ったりした。また、院内ネットワークシステムの構築に関する発表を国際会議や国内のセミナー等を通じて行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」でも述べた通り、平成28年度の主な目標は、初年度において構築した頻度論理をベースにして、時間の経過に伴う事象の変化が表現可能なデータベースの問合せ言語を伴うデータベース検索システムを開発することである。より詳しくは、データベース上のデータを抽出して、頻度論理のモデルである区間階層モデルを抽出されたデータから構築するシステムと、頻度論理によって表現される命題(頻度命題)を成り立たせる区間階層モデル上の時系列データを検索および抽出するシステムを開発することである。 まず、データベース上のデータから区間階層モデルを構築するシステムのプロトタイプの開発を行った。開発言語としてJavaを用いた。開発当初はモデルを構築するための時間が非常に長くなることを懸念していたが、現時点では、1000床の病院のナースコールの1年分程度の履歴データであれば、数分間でモデルの構築が出来ている状態である。 現在は、頻度命題を成り立たせる区間階層モデル上の時系列データを検索するシステムのプロトタイプを開発中である。このシステムの開発に際して、Javaおよび自然言語処理システムのantlr4を用いた。プロトタイプの開発は未だ完了していないが、最も懸念していた、統計的推定をベースにして頻度命題の真偽値を求める機能の開発の目処が立ったため、近日中に検索システムの開発も完了できる見込みである。 さらに、システムの開発と並行して、従来の言語では表現することが出来ず、かつ、頻度論理によって表現が可能になった、曖昧な時間的変化に関する命題の形式化の研究も行っており、最近は、事象の曖昧な継続状態など興味深いメタ命題も得られている。 以上により、今年度の研究の進捗状況も、概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
3年目となる平成29年度では、現在開発中の頻度論理をベースとしたデータ検索のための問合せ言語に基づくデータ検索システムを完成させ、計算量などの観点からのシステムの実用性の検証を行う。さらに、この検索システムを用いて、国立大学病院における実際のナースコールの履歴データの分析を行い、頻度論理をベースとした問合せ言語の有用性の評価を行う。 さらに、上記の検索システムを用いて、ネットワーク機器に蓄積されるログデータの分析も行う。より詳しくは、以下の2点の研究を行う。(1)院内ネットワーク上のパケットの時系列変化と、情報セキュリティあるいはネットワーク障害に関係のある事象との関連性を分析する。例えば、ループ障害の発生時期の前後において、院内ネットワーク上のパケットの時系列変化がどのようなものになるのかを分析する。(2)無線LANデバイスとアクセスポイントとのビーコンに関するデータを分析し、ユーザの行動パターンに関する研究を行う。この研究を通じて、将来的には、無線LANデバイスのユーザの位置を高精度で推定し、緊急時の連絡先の情報などユーザにとって有益な情報を効果的なタイミングで通知する仕組みの開発に役立てることを目指す。 検索システムの開発と並行して、頻度論理上の命題による時系列変化に関するメタ命題の研究も行う。事象発生頻度に関する曖昧な表現など、これまでに表現できなかった時系列的な変化に関する命題を、頻度論理上のメタ命題として表現することを目指す。この研究については、形式論理の分野だけでなく、オントロジー工学や記述論理や論理プログラミングの研究分野にとっても興味深い成果が得られると期待している。また、より優れた表現機能を持たせるために、オントロジー工学を組み合わせたメタ命題の研究も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は予算を殆ど予定通り使用することが出来たが、最後の購入物品が予想以上に安価で購入できたこともあり、数千円程度の予算が余った。
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次年度使用額の使用計画 |
余った予算は、今年度の予算と合わせて使用する。数千円程度の額なので、予定通りの使用の仕方で問題無く使い切ることが出来る予定である。
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