研究課題/領域番号 |
15K00301
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
戸次 大介 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (90431783)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 依存型意味論 / 選択制約 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、形式意味論の推論システムと統合された形式をもつ、語彙意味論および形式オントロジーの記述体系を提示することである。平成27年度の形式オントロジーに関する研究に引き続き、平成28年度には、自然言語における伝統的な問題の一つである「述語の選択制約」の問題に取り組んだ。
「述語の選択制約」とは、たとえば動詞「注ぐ」に対するヲ格名詞句は「液体」でなければならない、という制約であり、言語処理における曖昧性解消タスクでは「職人が注ぐヒマワリから採れた油」の理解において、職人が注ぐのは「ヒマワリ」ではなく「油」である、というような判断を行う上で必要である。一方、それを解決する理論は、「惜しみなく愛情を注ぐ」とはどういう意味か、「愛情」に「液体」の性質を付与していることになるか、「惜しみなく援助を注ぐ」とはいえないのは何故か、といった問いにも答える必要がある。
本研究では、上の例における動詞「注ぐ」がヲ格名詞句に課す意味的制約が意味論的前提(presupposition)であるという比較的古典的な立場を、依存型意味論の証明論的意味論の枠組みによって捉え直し、上に述べたような諸問題を直観主義型理論における証明探索の問題に還元するという分析を試みた。たとえば、「注ぐ」はヲ格名詞句yに対して、yが液体である、という前提をトリガーする。これが満たされない場合は前提違反となるが、一方で前提調節(accommodation)の仕組みによって、メタファーの場合には逆にヲ格名詞句が「液体」の性質を帯びる、という意味を持たせることができる。このような仕組みにより、選択制約、メタファーといった現象を前提・照応と統一的に計算する機構を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記概要で述べた成果により、当初の目標の一つであったBekki and Asher (2013)と依存型意味論との統合は、少なくとも理論的には成功したといえる。また、選択制約現象における未解決問題の一つであった共述語化(copredication)、強制(coercion)の問題についても、依存型意味論の前提束縛・照応解決の仕組みと統一的に扱うことができるようになった。
この研究成果は、以下の(木下恵理子氏、峯島宏次氏との共著)論文にまとめ、査読付き国際学会LENLS13において発表した。論文はpost-proceedingsに採択され(採択率4割)、Springer社LNAIシリーズNew Frontier in Artificial Intelligenceのbook chapterとして出版された。
“An analysis of selectional restrictions with Dependent Type Semantics”, Eriko Kinoshita; Koji Mineshima; Bekki, Daisuke; (2016). In Proceedings of LENLS13, pp.100-113.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、1) 形式意味論・語彙意味論・形式オントロジーを統一する理論体系、2) その間の推論・意味計算手法の確立、3) 自然言語処理が迎える「深い言語処理」に向けた言語リソースの構築、の3点を目標としており、そのうち平成28年度までに、1)および2)は達成したといえる。平成29年度は最終年度であり、3)の達成を目指すものであるが、この2,3年、自然言語処理における言語リソースに対する基準は大きく様変わりしており、もはや手製のオントロジーを記述する時代ではない。
平成29年度には、近年の画像処理・自然言語処理において注目されている分散意味論(distributive semantics)の技法を用いた選択制約のリソースを自動構築することを試みる予定である。また、分散意味論を依存型意味論の内部で使用する方法を確立することで、構築したリソースを言語処理において用いることができる見通しを立てる予定である。いくつかの成果については2017年4月の段階で論文の出版に至っていないことから、成果発表に必要な研究費を最終年度に繰り越している。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の研究の成果をまとめた論文が、投稿先学会に採択されたなかったため、当初の予定より成果発表が遅れている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に複数の国際学会で成果発表を行う予定である。
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