研究課題
前年度までに多チャンネル計測脳波計から得られる脳信号をGrassmann多様体の元である部分空間に埋め込み,分布に基づく計量を求める手法を提案した.本年度は,識別性能を最大化する計量を求める手法を提案した.2クラスの脳信号識別問題において,同じクラスに属するパターン同士の距離をなるべく近く,異なるパターン同士の距離をなるべく遠くするような計量をGrassmann多様体とその拡張である0以上1以下の固有値を持つ正定値行列の集合に対して定義し,そのパラメータを標本から学習し,閉じた形式で解を与える手法を提案した.公開データによる実験の結果,脳信号識別問題で用いられている共空間パターンフィルタ(CSP)やその拡張手法である共時空間パターンフィルタ(CSSP)や共時間-スペクトルフィルタ(CSSSP)を併用することで,従来法よりも高い識別性能を示した.また,脳信号処理問題への応用として,符号変調視覚誘発BCIにおいて,観測された多チャンネル脳波を入力符号へ逆変換する手法を提案した.これまで,符号変調視覚誘発BCIでは,観測脳信号の平均と個々の観測脳信号の誤差を小さくする正準相関(CCA)フィルタが用いられていたが,観測脳信号を目標信号とする根拠はない.入力された符号系列と観測脳信号の相関を最大にすることは観測信号に含まれる入力信号成分を最大限に取り出すことであり,最も妥当な特徴抽出方法であると考えられる.提案手法では,多層ニューラルネットやl1ノルム正則化を導入した特徴抽出法を提案した.実験の結果,提案法は従来法のCCAフィルタよりも高い識別性能を示し,また,これまでのBCIで最大の情報転送量を持つ位相つき定常視覚誘発電位(SSVEP)BCIよりも高い情報転送量を示した.
2: おおむね順調に進展している
前年度までに提案したMahalanobis距離のカーネル化にとどまらず,識別を最適化する方針の下で計量を求めることに成功した.さらにブレインコンピュータインターフェースへのフィードバックも順調であることから,概ね順調に進展していると判断する.
提案した識別性能を最大化する計量は,すべての入力パターンのペアについて,同じクラスに属するパターン同士の距離をなるべく近く,異なるパターン同士の距離をなるべく遠くするような計量を求めていた.しかしながら,パターン識別において,重要なのは,識別しやすいパターンを精度よく識別することである.例えば,サポートベクタマシンは識別境界から最も近い標本と識別境界の距離をマージンと定義し,マージンを最大化するような識別器を構成する.Grassmann多様体上においても同様にすべてのパターンを考慮するのではなく,ヒンジ損失のような評価関数を導入し,誤識別を起こしやすいような標本を精度よく識別できるような評価基準を導入する.また,その手法についてカーネル化を行う.このとき,識別境界は少数のパターンによって構成することができるため,サポートベクタマシンのように効率よく識別の計算を行うことができると考えられる.得られた手法をブレインコンピュータインターフェースなどの脳信号処理アプリケーションへ応用し,その性能を評価する.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Computers
巻: 5-431 ページ: 31
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences,
巻: E99-A, No. 4 ページ: 880-883
http://doi.org/10.1587/transfun.E99.A.880
Proceedings of the 38th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Sciety (EMBC 2016).
巻: 1 ページ: 1484-1487