本研究が対象とする青果や水産物などの生鮮品取引においては、現物取引が主体であるため、市場で売れ残った財の価値は0となり、生産者にとって損失リスクが大きく従来市場での取引手法は公平性に欠けていると考えられる。平成29年度はこれまでに実施した様々な観点から現物取引と予約取引を融合した市場における商品価値の時間的変化に対応した収益最大化メカニズムに加え、市場で取引に参加するバイヤーに対して、取引失敗に適切なペナルティを課すことにより取引成功率を向上させるインセンティブを与えることで、セラー収益を改善させるべくメカニズムの改良を実施した。具体的な研究項目を以下に示す。 ○ マルチエージェントシミュレーションに基づく市場メカニズムの評価 平成28年度に実装した市場メカニズムの挙動を模擬するシミュレータを使用して、バイヤーに対して取引失敗時に様々なペナルティが課せられる市場において、多様な戦略的行動に基づいた入札者の行動をパラメータ化した上でシミュレートするソフトウェアエージェントの実装を行い、大規模マルチエージェントシミュレーションを行った。 ○ 市場メカニズムの有効性、頑健性の改善 上記のマルチエージェントシミュレーションに基づく評価結果を解析することにより、戦略的行動に対するメカニズムの頑健性や様々な取引状況におけるメカニズムの有効性を定量化するための評価尺度を開発することにより、市場メカニズムの設計に対する具体的な指針を与えた。それらの結果を踏まえ、メカニズムに対して容易に実施可能で有効な戦略的行動を無効化するよう改良を加え続けることにより、取引参加者のモデルに制約を加えない現実的な取引状況においても、現物取引と予約取引が融合した市場において、取引失敗時にバイヤーに適切なペナルティを課すことにより、商品価値の時間的変化に対応した取引参加者全体の収益を最大化するメカニズムを実現した。
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