研究課題/領域番号 |
15K00335
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 麗璽 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (20362296)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表現型可塑性 / 多様性 / 進化 / エージェントベースモデル / 複雑系 / 野鳥の歌 |
研究実績の概要 |
本年度は次のことを行った.1)申請者らの提案する異種間での資源利用重複回避行動の共進化モデルを改変して,同種間における資源利用重複回避行動の進化モデルを構築し,予備的分析を行った.その結果,従来モデルのように可塑性(重複時回避確率)のみの進化を想定した場合には,ニッチの混雑度が中程度の場合において可塑性の分化が一時的に生じるのに加え,個性(重複にかかわらず選択する特定のニッチの種類)の進化を導入した場合には,より明確に個性と可塑性の多様化が生じることが判明した.2)同種間異種間における行動可塑性に基づく相互作用の具体的事例として野鳥の歌行動の時間的重複回避行動に注目し,名古屋大学名古屋大学大学院生命農学研究科附属フィールド科学教育研究センター稲武フィールド,および,米国カリフォルニア州アマドール郡において,録音調査を行った.録音はマイクロホンアレイを用いた可搬なシステムで行い,ロボット聴覚ソフトウェアであるHARKを用いて音源定位を自動で行うことで,従来の単一チャネルによる録音より正確に行動を調査できるか調べた.音源の到来方向や分離音源を参考にすることで,複数個体の歌行動をより正確に調査できる可能性が示され,主に国内の夏鳥の間で重複回避の傾向があるという予備的知見を得た.また,これらの試みを鳥類関係の学会等で発表し,応用の可能性について前向きな感触を得た.3)複雑な種間・個体間相互作用環境における生物の多様で柔軟な進化の一般的理解や応用の可能性を検討するため,人工生命研究や進化学に関する会議に出席し情報収集すると同時に,多重ネットワーク上の柔軟な協力行動の進化にレイヤ選択戦略の進化,種間相互作用関係の動的な共進化,多様なつ粒子群における創発的挙動の進化,個体学習と社会学習の進化,仮想多細胞生物の発生可塑性の進化などについても論じた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したように,同種間での表現型可塑性進化において,可塑性の多様化が生じる条件が明らかになったため.特に,可塑性と個性の共進化を想定することで,集団内の形質が多様化する点に関して議論を推し進められたのは大きな進展であった.また,野鳥の歌行動の観測と分析に関しては,特に国内調査における予備的データと知見を得ることができ,観測の対象となり得る種や状況の検討を進めることができたため.同時に,音環境に応じたノイズの排除などシステムの活用のための課題も明らかにできた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の知見と成果を踏まえて,次の事を中心に進める予定である.まず,現在の表現型可塑性進化モデルを拡張し,種間と種内の相互作用が同時に存在する状況が柔軟に表現可能にする.種間・種内相互作用の構成比を様々に設定した条件で網羅的に実験を行い,異なるレベルにおける表現型可塑性の多様化について明らかにする.さらに,個性の進化を加えたモデルに関する実験も行う.また,知見を踏まえてより一般的な進化モデルの構築やより具体的な問題設定も検討する.また,前年度において歌行動の時間的重複回避行動が示唆された異種(夏鳥)の間相互作用過程の観測とその情報論的分析を進める.これまでのPCを用いたシステムに加え,連携研究者である早稲田大学奥乃教授のグループで開発された,屋外長時間録音可能な新型マイクロホンアレイも活用する.また,野鳥の歌行動の傾向をより詳細に観察するためのインタラクティブ実験が可能なシステムへの拡張や,得られた分離音源の効率的な注釈付けを狙ったゲーム的な枠組みも検討する.さらに,多様で複雑な種間・個体間相互作用環境や環境と個体との関係における可塑性と多様性の進化の一般的理解を深めるため,人工生命アプローチに基づくモデル研究を進める.
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