研究課題/領域番号 |
15K00337
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土居 伸二 京都大学, 工学研究科, 教授 (50217600)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心臓ペースメーカ / Hodgkin-Huxley型数理モデル / 非線形振動 / 濃度変数 / 分岐解析 |
研究実績の概要 |
心臓ペースメーカ細胞(洞房結節細胞)に異常が生じた場合の治療法として,人工的なペースメーカ(電子機器)を埋め込むのではなく,(洞房結節細胞以外の)心筋細胞に遺伝子工学的操作を施すことによりペースメーカ機能を生じさせ,それを用いて心臓を治療する「生物学的ペースメーカ工学」の研究が行われている.本研究では,生物学的ペースメーカ工学に資することを目的として,心筋細胞の数理モデルを用いたシステム論的研究により,心室筋細胞などの非ペースメーカ細胞にどのように遺伝子操作を施せば,ペースメーカ機能が生じるかの詳細を明らかにすることを目指している. 平成27年度においては,ヒト心室筋細胞の数理モデルを用いて,内向き整流カリウム電流等を変化させることでペースメーカ活動が発生することを確認した.また,心室筋細胞から創り出されたペースメーカ活動を定量的に解析し,心臓ペースメーカとしての妥当性を検討した.さらに,中心細胞と周辺細胞という洞房結節細胞の異種性やギャップ結合が及ぼすペースメーカ活動への影響を調べた. 平成28年度においては,ペースメーカ細胞の双安定性(振動解と心停止に対応する安定平衡点が共存)に焦点を当て,すべてのイオン電流コンダクタンスに対して2パラメタ分岐解析を徹底的に行うことで高次元パラメタ空間における双安定領域及び振動解のみが単安定となる領域(ペースメーカ細胞として適切な活動を行うことのできる領域)を解明した. 平成29年度においては,ヒト心房筋細胞のCRNモデルを用いて,ナトリウム,カリウム,カルシウムなどのイオン変数に着目し,解析を行った.これらの変数は,他のゲート変数や膜電位に比べて変化が遅いので,モデルが定常状態に達する時間が長くなることが懸念されるが,濃度変数を記述する微分方程式に外部刺激電流の影響を適切に考慮することで,この問題が回避できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「心臓心筋細胞の数理モデルを用いたシステム論的研究により,心室筋細胞などの非ペースメーカ細胞にどのように遺伝子操作を施せば,ペースメーカ機能が生じるかの詳細を明らかにする」は,ほぼ達成できており,進捗状況は「おおむね順調に進捗している」と言える.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画である「心臓心筋細胞の数理モデルを用いたシステム論的研究により,心室筋細胞などの非ペースメーカ細胞にどのように遺伝子操作を施せば,ペースメーカ機能が生じるかの詳細を明らかにする」ことは,ほぼ達成できているが,社会情勢等を考慮して国際会議発表を見送るなどの理由により補助事業期間を延長したので,研究内容を当初計画以上に発展させる.特に,心筋細胞の数理モデルを扱う上で様々な解析の障害となる「濃度変数」の取り扱いを詳細に検討する.具体的には,ナトリウム,カリウム,カルシウムの各濃度変数を固定した場合の数理モデルの挙動を分岐解析などを用いて詳細に解析した後,各濃度変数の時間変化を表現する方法の妥当性について検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢等を考慮して国際会議発表を見送ったため,国際会議発表に係る必要旅費が大幅に少なくて済んだ.平成30年度は,H29年度の成果を更に発展させて学会発表をより活発に行うなど,適切に使用する.
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