生息地破壊と生息地分断化による絶滅等の問題は、環境保全にとって重要な課題となっている。近年、環境保全に加え、生息地の復元と生態系を構成する生物種の回復がより重要となってきており、生物多様性保全の観点からも注目を浴びてきている。 本研究は、生息地の破壊が生物の分布拡大に及ぼす影響を解明するため、その空間パターンに着目して、生息地破壊の3つのモデルの構築とコンピュータシミュレーションの解析を行ってきている。 本研究では、今までに研究されたモデルを拡張し、より複雑ではあるが、実際の生物に即したモデルの開発を行った。また、連携研究者の榎原氏と研究分担者の向坂氏とともに、寒天培地に障害物を設置して納豆菌の培養を行い、分布拡大を解析する実験を行った。この実験により、pHの値など、培地の環境条件に依存して、分布拡大のパターンが変化すること、また、寒天培地に障害物がある場合は、分布拡大の速度が抑制されるが、最終的な拡大する分布域には影響しないこと、また、分布拡大には、栄養の流入が重要であることがわかった。 今年度は、この分布拡大について、シミュレーション実験による解析を行った。実験より、納豆菌は、枯草菌とは異なり、寒天濃度が低く、栄養濃度が高い環境条件でコロニーの拡大が抑制されるということがわかっている。私たちは、この理由は、納豆菌が培地内部へ3次元的に重なりながら増殖拡大していると予想した。 そこで、納豆菌コロニーのパターン形成について、水平方向だけでなく鉛直方向にも増殖可能とする3次元的なモデルを構築し、モデルとシミュレーションにより解析を行った。その結果、栄養濃度が高く、寒天濃度の低い環境条件では、納豆菌は運動がしやすく、栄養を効率よく吸収できることでさらに栄養を取りに行くためにコロニーを拡大させる必要がなくなり、納豆菌密度の高い培地の中心付近で培地内部へ3次元的に増殖することが分かった。
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