本年度は、素手による仮想物体とのインタラクションにおいて、把持知覚や柔らかさ知覚の向上を目的として、仮想物体の変形限界である芯部分の提示方法を検討した。まず、音量変化を伴う聴覚刺激を提示するARシステムを開発した。そして、素手による仮想物体の把持において、指先間の距離に応じた音量変化と仮想物体の芯部分での音量変化を伴う聴覚刺激を用意し、仮想物体に対するユーザの把持知覚と柔らかさ知覚への効果を被験者実験により検証した。その結果、仮想物体の変形限界である芯部分での音量変化によって、ユーザは柔らかさを知覚しやすい傾向があることが示された。また、芯部分で音量が上昇する音量変化は、より柔らかさを感じさせやすいことが示唆された。 本研究では、ヘッドマウントディスプレイ上に描画される仮想物体を、触覚提示デバイスを用いずに、素手で掴み操れるARインタラクションを実現した。まず、仮想物体に対するユーザの把持知覚と柔らかさ知覚を効果的に得るために、ユーザが仮想物体を掴み操る際の手の動きに合わせて、ヘッドマウントディスプレイ上に提示する視覚刺激と聴覚刺激を被験者実験により選定した。そして、実験結果に基づき、視覚、聴覚、触覚、そしてそれらの感覚間相互作用により、ユーザに疑似的な触感を提示することで、ユーザに仮想物体を把持していると感じさせることができ、また、仮想物体の柔らかさについても伝えられるARシステムを開発した。本研究の成果である、素手によるARインタラクションは、今後のARを利用した新しい表現やサービスにおいて、仮想物体の実在感や操作感などの向上に貢献するものと考えられる。
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