研究課題/領域番号 |
15K00379
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研究機関 | 北星学園大学 |
研究代表者 |
後藤 靖宏 北星学園大学, 文学部, 教授 (30326532)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音楽認知 / 音楽聴取環境 / 感性情報処理 / 潜在記憶 / 視聴覚相互作用 / 心理的変化と生理的変化とのタイムラグ |
研究実績の概要 |
人間の情報処理は視覚優位であるため、我々が音楽を聞いて感得する感覚は、聴覚と視覚の相互作用によって達成されていると考えるべきである。本研究では“心地よさ”という研究上の基本軸を設定し、「潜在記憶」、「視聴覚の相互作用」、および「計算モデルの構築」という異なる3側面から音楽聴取に対する包括的なアプローチを行う。これにより、音楽認知の基本的な知覚処理過程を土台にした“心地よさ”の感性情報処理過程を明らかにできる。同時に、臨床場面に応用可能な知見を得ることも目的としている。 平成28年度は、研究計画の中核となる年度として位置づけ、基本的には予定通りの方向性を堅持して研究を行った。具体的には、聴覚情報処理である音楽認知過程と、視覚的情報処理としての聴取環境との関係を検討するために、「心理的緊張を生起させない空間」と「作業目的の機能的空間」の2種類を設営した。空間内には光色(白熱色/蛍光色)と照明方法(直接/間接)という性質の異なる照明を設置し、その中で被験者に音楽を聴取させ、音楽聴取前、聴取中および聴取後における生理的反応と心理的反応の変化をそれぞれ調べた。音楽の独立変数は「拍節性」、「テンポ」、「音圧」および「音色」であった。 実験の結果、空間および照明が相互的に影響を与えあい、音楽聴取の仕方に変化が現れることがわかった。特に興味深いのは「心地よい」という主観的感覚と、生理的尺度の変化とのズレである。すなわち、「白熱色」×「間接」の照明を設置した空間で音楽を聴取した場合、その空間を「心地よい」と感じ、音楽に対する評価も高まるが、そうした感覚は必ずしも生理的変化に明確には表れず、あるいは表れるとしても数秒~数分程度のタイムラグが生じるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展しているものの、予定していた2つの実験のうちの1つを完了させることができなかった。 当初予定では、音楽と照明の“同期”を操作した際の注意の分配について調べる実験を想定しており、空間内に設置した照明の「点滅」および「光色変化」と、音楽の「拍節的アクセント」の同期性を操作することによって、音楽聴取における注意がどのように分配されるのかを調べる予定であった。このための実験に着手はしたものの、必要な全データを採取しおわるには至らず、最終年度に持ち越しとなった。 この理由は、担当している学内業務(入学試験に関する業務)が予想以上に膨らみ、時間が割かれ、その対応に追われたためである。研究の目的や方法自体に問題があったわけではなく、学内業務も3月で終了したために、最終年度で十分に挽回することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初予定通りに進める計画である。すなわち、音楽認知過程における潜在記憶の役割、情動喚起の発生と変化時点に関する生理的な変化と自身のメタ認知との関係、および“心地よさ”に関する視聴覚間の情報処理の関係性を明らかする。そのために、それらの関係を包括的に説明し得る計算論的認知モデルを構築し、シミュレーションを行って妥当性を検証する。同時に、老人ケア施設にて音楽を用いた運動機能向上プログラムを実践する。 なお、前述したように、平成28年度の研究予定が一部完了しないまま持ち越しになったために、最終年度の冒頭3ヶ月内にこの作業を完了させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では、設営した音楽聴取空間内で、聴き手の注意の向け方を調査する計画をたてていた。その際、設営した空間における音楽呈示装置としてハイレゾリューションの音楽再生システム(プレイヤー、アンプおよびスピーカー)の購入を予定していたが、発売/購入のタイミングと、実際の実験の予定との間にズレが生じた。さらに、購入を予定していた装置の改訂版が次年度に発売されることが発表になった。性能や価格、あるいは「緊張を緩和させる空間」に合致したデザインという点において後継機種の方が適切であり、その製品を購入するために、平成28年度の購入は見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の通り、当初の計画を実行すべく音楽呈示装置としてハイレゾリューションの音楽再生システム(プレイヤー、アンプおよびスピーカー)の購入を予定している。繰り越し分によってこの分をまかなえる計算になっている。
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