研究課題/領域番号 |
15K00381
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松川 睦 日本大学, 医学部, 助手 (90318436)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感性形成機構 / ストレス反応 / ノルアドレナリン / 分界条床核 / 海馬 |
研究実績の概要 |
本研究では感性における個体差の形成過程で、動物が先天的に持っている価値判断基準が経験によって修正・改変される際に生じる、選択的かつ直接的な脳内抑制システムについて調査するために、まず脳内のどこで、どの神経細胞が、もしくはどの神経回路が抑制システムに重要なのかを検索することを目的としている。現在、脳内の調節系(抑制系を含む)としては、大きく2種類、つまり局所的な回路(γアミノ酪酸(GABA)システムを主体とする)および拡散型の広範囲を制御する回路(アミン系およびアセチルコリンなど)が知られているが、このうち、広範囲に影響を及ぼすアミン系、特にカテコールアミンの一種であるノルアドレナリンが、実験動物(ネズミ)に先天的に恐怖反応を惹き起こす捕食者の匂い(キツネ臭)を嗅がせた際に、前頭葉および海馬において有意に増加することが最近になって(PLoS One (2014); Brain Research (2015))報告されてきている。 そこで、先天的には何ら反応を示さないような人工臭を若齢期に経験させることで、成獣における捕食者臭誘発ストレス反応が変化する際に見られる、脳内の分界条床核における活性化神経細胞数の変化、およびその際の前頭葉および海馬におけるノルアドレナリン濃度の変化を調査した。 その結果、経験による価値判断基準の変化に伴って、脳内ノルアドレナリン濃度の変化が確認されたが、ストレス反応および分界条床核における活性化神経細胞数の変化と合致するような変化は前頭葉では見られず、海馬でのみ関連性が認められた。つまり、海馬におけるノルアドレナリンの増加が生命の安全を脅かされた際のストレス反応の発現とその調節に重要である可能性が高いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の立案時においては、γアミノ酪酸(GABA)システムを主体とする局所的な神経回路を調節系の主体として考えていたが、カテコールアミンが捕食者臭誘発ストレス反応時に脳内の前頭葉および海馬で増加するという報告を受けて急遽、拡散型の調節系に対する検討を行ったため、予定していた研究計画と若干のズレが生じているが、関連する脳内神経回路網もしくは脳部位を特定するための候補領域の探索についても現在徐々に進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
現在、関与する脳内神経回路網もしくは脳部位を特定するための候補領域を探索している。嗅覚情報処理過程(嗅球や一次嗅皮質)および嗅覚関連領域以外でこれまでに関与が示唆されている脳領域(分界条床核や扁桃体など)に神経トレーサーを微量注入して追跡する神経標識実験および、関連することが考えられる脳領域を選択的に破壊することで、実際にストレス反応が変化するのかどうかの検証実験を並行していく。さらには、遺伝子解析の手法を取り入れ、ストレス反応時、もしくはその軽減時に変化するGABAシステム関連遺伝子のmRNA解析などを進めていく予定である。
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